第344回 優秀な人ほど時短社員になっていく

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第344回「優秀な人ほど時短社員になっていく」


安田

「40時間も働く必要があるのか」という議論がありまして。仕事ができる人はそんなに働かなくてもいいんじゃないかと。

久野

現実的には難しいでしょうね。組織の属していると、仕事ができる人のところにたくさん仕事が回ってくるので。

安田

その割に給料は大して変わらないっていう。

久野

まあ短期的に見ればそうなりますね。

安田

仕事が出来る人ほど短時間で仕事が終わるんだから「40時間も拘束しないでくれ」という気持ちはよく理解できます。

久野

要するに「成果に対して給料を払ってくれ」ということですよね。

安田

給料を増やすより拘束時間を減らして欲しいんじゃないですか。

久野

なるほど。そういうこともあって時短正社員が増えてきていますね。

安田

時短正社員?

久野

労働時間が通常より短い正社員ってことです。

安田

素晴らしいですね。仕事が早い人は短い勤務時間でも同じ報酬がもらえると。

久野

いえ、残念ながら給料は高くなっていかないです。時短正社員って役職にも就いていないので。

安田

仕事ができる人でも給料は増えないってことですか。

久野

これは日本人の悪いところだと思うんですけど。勤務時間が短くて責任感のある人って少ないんですよ。

安田

仕事を放り出して帰ってしまう無責任な人が多いってことですか。

久野

無責任というのではなくパートみたいな感覚ですね。時間が短いと責任が小さくなる傾向があって。海外では時間が短くても「責任は一緒だ」っていう感覚ですけど。

安田

そりゃそうですよ。時間は関係ないです。成果を出せばいいだけで。

久野

会社と労働者とでそこを協力し合えば、「時短で稼げる人」ってたくさん出てくると思うんです。けど残念ながらそうなっていない。

安田

時短で働く人の責任感が希薄だと。

久野

会社もそのレベルを要求しないんです。時短正社員=「時給を月給で払っている人」みたいな感覚で。

安田

それは本当の時短正社員ではないですよ。短時間でもたくさん稼げる人を増やしていかないと。

久野

そうなんですよ。本質ではない。ただ短時間で成果を出せる人って少ないんです。

安田

単に勤務時間が短い社員になっているわけですね。報酬もその分少なくて。

久野

そういうことです。

安田

仮にスキルが上がっていけば、その分収入も増えていくんでしょうか?休みの日にしっかりスキルアップしたりして。

久野

本来はそうあるべきですよね。労働時間は短いけど能力が高く、短時間で大きなパフォーマンスを発揮して、会社にも社員にも両方メリットがある。

安田

だけど現実はそうなっていないと。

久野

ですね。時短正社員は増えているけど単に時給を月給で払っている状態で。今が大きな転換点だと思います。稼げる時短が出てくるかどうか。

安田

考え方は業務委託と同じですね。コストを下げるために業務委託にするのではなく、本人に合った働き方でパフォーマンスを最大化するために業務委託にするっていう。

久野

はい。それが本来の姿です。

安田

業務委託も時短社員も安く使うのはダメってことですよね。

久野

なんとなくごまかした感じの時短正社員が多いと思います。それでは人が採れなくなっていくじゃないですか。

安田

採用力を上げるためには時短でもそれなりに責任のある仕事をしてもらって、報酬もスキルと成果に合わせてどんどん増やしていって。

久野

そうしていくべきでしょうね。収入がすごく多い週4正社員とか、週3正社員とか。

安田

素晴らしい。いい人材が集まりそう。

久野

パフォーマンスによってちゃんと給与がもらえる会社があれば、人気が出ると思います。問題はそれを管理するマネジメント能力があるかどうか。

安田

仕事ができる人にはマネジメントなんて必要ないですよ。

久野

個人で完結できる仕事ならいいですけど。中小企業は難しいと思いますよ。ただそういう働き方も増やしていかないと中小企業は厳しい。いい人材がぜんぜん集まらないので。

安田

現状の時短正社員ってどんな人が多いんですか?

久野

男性はそんなに選択しないですね。女性でパフォーマンスが高い方は選ぶ傾向があります。

安田

なるほど。能力の高い女性を繋ぎ止めるなら時短正社員だと。

久野

はい。ウチの会社もそういう働き方を検討しているところです。時短でも優秀な人にはどんどんお金を払っていかないと辞めてしまいますね。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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