地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。
第86回 「バタバタ貧乏」から「減収増益」への20年

僕の場合は、とにかく「やりたいこと」がたくさんあったので、大変といえば大変でした。修行でお世話になった神戸の「ダニエル」というお店が、ケーキ、パン、レストラン、カフェと、すべてを手掛けていたんです。だから自分のお店でも、ケーキだけじゃなくパンも料理も全部出したくて。

ええ。組織が大きくなって人数も増えて、確かに売上は上がっていきました。でも忙しいばかりで思ったほど利益が出なくて。ちょうどオープンして10年ぐらい経って、安田さんにも色々とご相談させていただいていた時期だったと思います。

そうですね。そこからはもう徹底的に数字を見直して、無駄なことは全部やめていこう、というフェーズに入りました。「無理・無駄・ムラ」を洗い出して、儲からないことはやめる。手間がかかりすぎるものは値上げする。それでも売れないなら、もうやめる。

バレてましたか(笑)。確かに、自分にとってリラックスできる場所ではありました。ただ経営者として見ると、3店舗の中で一番売上が低いそのカフェに、僕自身の時間がほぼかかりっきりになってしまっていて。

そうなんです。拡大している最中は、そこまで見切れませんでした。そこを断行した結果、店舗が3つから2つになったので売上は当然減りましたが、利益率はめちゃくちゃ上がりました。3店舗の頃は年商が2億近くあっても、利益が500万円しか残らない、なんて年もありましたから。

労働時間なども含めて、全体的に改善させていくフェーズがそこでした。 要は「やらないこと」を決めるのが大事だと。ただそうなると面白いもので、今度は社員の子たちが時間が空くと何か新しい作業を見つけてきちゃうんです。

そうなんですよ(笑)。で、そうやって見つけてきた仕事がいつの間にか「やらなきゃいけないこと」になってしまう。だから「無駄なことはするな」と口酸っぱく言って。でもそれを徹底したら、また別の問題が出てくるんですよね。

今度は逆に、「やりがい」とか「楽しさ」みたいなものが失われて、職場が窮屈な雰囲気になっていったんです。そこからはスタッフが作りたい商品を少しずつ増やしていく、というフェーズがまた数年続きましたね。数字もちゃんと計算させた上でやらせてみよう、と。

ははぁ、なるほど。効率化の「揺り戻し」が来たわけですね。余計なことをしなくなったら利益率は上がったけど、社員が手持ち無沙汰になってしまった。飲食店って、忙しすぎる店よりも暇な店の方が人が辞めるって言いますもんね。

この20年間で経験したことのないレベルの値上げラッシュなので。そういう意味では今が一番、経営者として試されているなと感じています。ここを間違ったら本当にやばいぞ、という危機感はすごくありますね。

そうなんですよね。うちも毎年上げ続けてはいるんですが、それも含めて、どんどん利益を圧迫していく形になっています。なので、もう「ビジネスモデル自体」を見直すとか、そういう根本的な改革をしないといけないなと。
対談している二人
スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役
1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。


















