地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。
第2回 神戸の修行先で学んだのは、ケーキの「仕上げ」だけ?

スギタさんは現在、株式会社モンテドールの代表を務めながら、パティシエとして現場でもご活躍されています。でも前回の対談では、家業を継ぐことはやめて大学進学を決めたと仰っていましたね。

ところがすでにお兄さんが東京の私大に通われていたこともあり、ご実家の家計が大変だった(笑)。それで地元の国公立、広島大学に進学されたというお話でした。そこで数年モラトリアム期間を過ごされて。で、結局普通に就活することになったわけですか。

笑。でも実際、売っているものが洋菓子なだけで、実態はそちらに近かったんです。お客さんは近所のお爺ちゃんお婆ちゃんだし、働いているのも60代・70代の親戚。そこで毎日コーヒー飲みながらおしゃべりしている。そんな空間で。

そうなんです。他の店はいろんな世代のお客さんがいっぱい集まっていて、みんなニコニコしながらケーキを選んでいて。「あ、ケーキ屋ってこんなに笑顔や幸福感が溢れている空間なんだ」って驚きました(笑)。それで「こういうお店なら自分もやってみたいかも」と初めて思えたんですよね。

ええ。神戸にある『ダニエル』というお店に入りました。僕が好きだった広島のお店のシェフが、プライベートで足繁く通う店だったんです。尊敬するシェフがそんなに入れ込む店なら間違いないだろうと。

すごい! やっぱりそもそも頭がいいんですねぇ。でも『ダニエル』の方もびっくりされたんじゃないですか? 国立大学出身、しかも授業料免除の特待生がやってきたんですから。そもそも『ダニエル』って新卒採用していたんですか?

そうなんです(笑)。ただオープンから3ヶ月ほどでキッチンスタッフが辞めてしまって。それで厨房に入ることができまして。ケーキ作りではなくレストランの調理でしたけど、本格的なフレンチの厨房での調理スタッフなので、すごく勉強になりましたね。

はい、朝だけですけど。朝5時から11時頃までケーキの「仕上げ」をして、そこからカフェに出勤してランチタイムをこなす、という生活でした。ある意味、ケーキ屋とカフェの掛け持ちみたいな感じかな(笑)。

お菓子作りは大まかに「仕込み」と「仕上げ」の2つにわかれているんですね。「仕込み」はいわゆる下準備。生地やソースを作ったりクリームを炊いたりする。で、「仕上げ」は文字通りお菓子を仕上げていく作業なんですが、僕はそちらしか経験しないまま退職してしまいました。

ほぉ。その状態で家業を継ぐために実家に戻られたわけですか。果たしてそこからどうやって実家のケーキ屋さんを切り盛りするようになったのか。それはまた次回の対談で詳しく聞かせていただきたいと思います。
対談している二人
スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役
1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。