第194回「自分はどちら側?」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第193回「買い叩かれるのは誰?」

 第194回「自分はどちら側?」 


安田

プロ野球選手のキャリア?

石塚

今すごく変わりつつあります。

安田

へえ。それはどのように。

石塚

プロ野球選手って、引退したらテレビ解説とか球団のコーチとか、だいたいプロ野球に戻るでしょ。

安田

プロ野球の周りで食べてますよね。

石塚

それが変わりつつあって。プロ野球選手が社会人チームのコーチを引き受けたり。アドバイザーになったり。今すごく増えてます。

安田

昔はそういう人がいなかった?

石塚

昔はめったになかったんですよ。

安田

ルールが変わったんですか。

石塚

いまはプロアマ規定も昔ほどうるさくないし。

安田

なぜ増えたんですか。

石塚

プロ野球選手も「型にはまったキャリアじゃ古い」と思っているんじゃないですか。

安田

なるほど。プロ野球の世界だけだと視野が狭くなりますもんね。

石塚

狭いですよ。だから独立リーグの球団経営する人が出てきたり。一流の社会人チームで選手を育てることをやったり。キャリアも複線化してきました。

安田

やっぱり野村さんは最先端だったんですね。シダックスの監督になったり。またプロに帰ってきたり。

石塚

そうなんです。凄いんですよ、あの方は。「仕事ができる人は必要とされる」の典型ですね。

安田

ちゃんと人を育てられますしね、野村さんって。

石塚

はい。

安田

いろんな経験をした人のほうが、プロ野球界でも飛躍する可能性が高いでしょうね。

石塚

おっしゃる通り。

安田

メジャーなんかそうですもんね。MBA取った人が役職についてたり。

石塚

自分で球団オーナーになるような方も多いですよ。

安田

確かに。選手がオーナーになりますよね。

石塚

大企業のサラリーマンも参考にしてほしい。

安田

大手の50代は時間的にも金銭的にも余裕ありそうなのに。

石塚

大企業は快楽が多いじゃないですか。

安田

快楽?

石塚

丸の内のインテリジェントビルで、皇居を見下ろして会議して。書類1個つくることもなくアシスタントと部下を呼べば仕事は動くし。

安田

それは気持ちいいでしょうね。

石塚

「おい!」なんて言うとすぐパッと部下が来て。「これとこれとこれ」って指示しておけばきれいに出てくる。

安田

大手ならではですね。

石塚

夜は会食で六本木や銀座に行けば「えーっ!安田さん、三井○○なんですかぁ~!」なんて言われて。「ああ、まあ、大したことないけど」なんて(笑)気持ちいいじゃないですか。

安田

気持ちよさそう(笑)

石塚

だけどこれをずっとやっていると、40代50代で間違いなく劣化します。

安田

そりゃそうですね。

石塚

毎日決まりきったことしかしないから。

安田

プロスポーツの場合は引退が決まっているじゃないですか。

石塚

はい。長くても40過ぎぐらい。

安田

終わりが決まってるから考えやすいですよね。社員ではなく個人事業主だし。元々大手の社員とは意識が違う気がします。

石塚

大手のサラリーマンも40ぐらいに定年を決めないと。ちがう経験をしていかないとどんどん劣化する。

安田

劣化している自覚はあるんでしょうか。

石塚

いや。ないほうが多いんじゃないんですかね、圧倒的に。

安田

みなさんあまり危機感を持っていない?

石塚

ないない。人ごと。すべて人ごと。

安田

高齢者ドライバーと同じですね。事故を起こすまでは「俺は他のやつとは違うから」って。みんな思ってる。

石塚

「俺は運転うまいし」なんていってね。

安田

「若いやつより俺うまいから」みたいな。そんな感覚なんでしょうね。

石塚

間違いない。

安田

スポーツなら劣化が見えるじゃないですか。打てなくなったり守れなくなったり。ああいう明確な境目がないですもんね。

石塚

そうなんです。それが終身雇用のいちばん残酷なところで。

安田

ある意味ハッピーな老後なんでしょうけど。残念ながら企業にもうそんな余裕がないですもんね。

石塚

80年代までは大企業にいれば100パーセント安心でした。けど90年代以降は大企業勤務でもリスクがある。

安田

本人たちはリスクを感じてないんでしょうね。

石塚

フリーランスのリスクと大企業勤務45歳以上のリスクっていったら、僕はもうどっこいだと思ってます。

安田

「まずは大企業に入っておけ」っていうのが我々世代の常識でしたけど。

石塚

大企業に入るなら2・3年で十分です。自分でベンチャーを興したらいいんです。

安田

なるほど。

石塚

で、その会社を大企業に売って事業部門長をやったり。そういうキャリアがこれから出てくると思う。

安田

一旦やめてまた戻るってことですか。

石塚

将棋の成金みたいなもんですよ。

安田

歩からいきなり金になっちゃうと。

石塚

そう。若いけど「ビジネス戦闘力は俺がいちばん上だ」って自負があるから。平気でバッサバッサいく。そういうキャリアが出てくる。

安田

上の人たちにアドバイスするとしたら「1回ベンチャーに行ってこい」ってことですか。

石塚

とにかく1回修羅場を経験したほうがいい。連続性を1回断って市場価値を見直したほうが。こんなアドバイスしても聞く人はいないけど。

安田

必要性を感じてないでしょうね。

石塚

「なに言ってんだよ」みたいな。それこそ「人ごと」ですよ。「俺は関係ないけど、お宅どうぞ。そっちのほうがいいんじゃないですか?」みたいな。

安田

なぜ人ごとでいられるんでしょうね。

石塚

もうその生活が長過ぎて。これが永遠につづくと思ってるんですよ。

安田

辞めたいとは微塵も思わないですか。

石塚

丸の内の新しいビルに行ってみてください。もう、やばいぐらいゴージャス。きれいだし、天井高いし、眺めはいいし。受付の人はキレイだし。

安田

やっぱり大企業ってお金あるんですね。

石塚

ありますよ、そりゃ。内部留保たくさんありますから。

安田

でも自分のお金じゃないですからね。

石塚

そうなんです。けど「自分は豊かな側の人間だ」って勘違いしちゃう。

安田

いずれ「そっち側じゃなかった」と思い知らされる日が来ますか。

石塚

そう。ある日突然ね。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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