第174回「自殺率を高める本当の原因」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第173回「誰も言わないホントの話」

 第174回「自殺率を高める本当の原因」 


安田

女性の自殺者がコロナの影響でものすごく増えてるそうです。

石塚

僕もニュースで見ました。

安田

若い子の自殺も多くて原因は貧困だと言われてます。

石塚

それが一般的な見方だと思いますよ。

安田

私もそう思ってたんですけど。養老孟司さんのYouTubeを見て考えがちょっと変わりまして。

石塚

ほう。

安田

自殺率ってGDPに比例して、きれいな直線になっているそうです。つまり豊かな国ほど自殺者が多いというのが現実で。

石塚

そうなんですね。

安田

幸せ指数が高いと言われている「カナダ・スイス」のほうが日本より自殺率は高い。貧しいはずのエジプトのほうが自殺率は低い。認めたくない事実がここにあるわけです。

石塚

貧困よりもっと根深い問題があるんでしょうね。

安田

たとえばどんな?

石塚

すべての原因は「人と比べる」ところから始まってる気がしますね。

安田

人と比べるから辛くなるってことですか。

石塚

貧困というよりも格差が原因ってことです。「私は非正規社員で給料が安い」「役回りもぜんぜん低いし、先も見えない」「正社員と比べると私なんて……」っていう。

安田

なるほど。

石塚

高学歴ワーキングプアも増えてますし。同級生と比較するとかなり辛いはず。

安田

「なんで俺だけが・・・」ってなりますよね。

石塚

格差を体感すればするほど自殺につながると思う。

安田

貧困ではなく格差が自殺の原因であると。

石塚

間違いなく大きな要因だと思います。

安田

豊かな国ほど二極化が進んでいきますから、GDPと比例するのも納得がいきますね。

石塚

学者じゃないので正確なことは分かりません。でも格差ってどんどん広がってるじゃないですか。

安田

そうですよね。

石塚

ある研究者に聞いたんですけど。「生きてること自体が苦痛で、それをとにかく1回終わりにしたい。楽になりたい」っていう原因がほとんどだそうです。

安田

1回終わりにしたい?

石塚

その衝動だと聞きました。どう自分が頑張っても、あがいても、エンドレスにつづく本当につらくて切ないことから逃れられない。

安田

「生きてるより死んだほうがまだマシだ」ってことですね。これは社会的になんとかしなくちゃいけない課題ですよ。

石塚

そう思います。

安田

だけど原因を見誤ると自殺は減らないわけで。「貧しいから自殺が増える」という仮説自体が間違ってるかもしれない。

石塚

日本の場合はGDP比率うんぬんよりも、「ビジネスの関係性=社会の関係性」ってところがいちばん大きいと思う。

安田

どういう意味ですか。

石塚

地域コミュニティーとの繋がりが薄れてしまって、すべてのネットワークがあまりにも会社にシフトしすぎた。

安田

SNSがあっても実際に出会うのは会社関係の人たちばかりで。

石塚

地域との繋がりがもっと豊かであればお互い助け合っていける。気持ちの余裕もちがうと思う。

安田

昔の日本はそんな感じだったんでしょうね。

石塚

戦後日本は「会社は家族、会社はひとつ」というビジョンで、ぜんぶそこに寄せちゃったから。学校を卒業すると会社や仕事での付き合いがほぼ全てになる。

安田

言われてみれば異様な状態ですよね。会社がすべてだなんて。

石塚

日本の自殺率の原因って、そのへんにあるような気がするんですよね。

安田

単に正規雇用が増えたところで、自殺者が減るとは思えないってことですか。

石塚

そうです。

安田

地域コミュニティとか、仕事やお金儲けじゃない関係とか、そういうものが必要ってことですよね。

石塚

おっしゃる通り。

安田

私もそう思います。もちろん景気はいいほうがいいし、収入も多いほうがいいんでしょうけど。それだけで解決するのか疑問ですね。

石塚

それだけでは無理でしょうね。何だかんだいっても日本は教育的な平均値が高いし、こんなに安くておいしいものもたくさんあるし。

安田

充分豊かですよね。

石塚

もし本当に生活を営めないとしても生活保護を申請することもできるし。

安田

お金だけでは解決できないと。

石塚

「ここでちょっと休んでいきなよ」「ゆっくり立て直しなよ」っていう関係が、地域に根付いていることが大事。

安田

選挙でも「公助」という言葉をみなさん使ってましたね。自助努力は限界があるから、「しんどいときはみんなで助け合おう」って。

石塚

すごく大事なことだと思います。

安田

だけど一方で、ネットを見ると生活保護の人が叩かれたりしてる。

石塚

はい。

安田

「生活保護より少ない年収の人もいるんだ。何もしないで気楽なもんだ」って。自分で自分を苦しめてるような気もするんですけど。

石塚

「そういうものに自分はなりたくない」っていうことの反射だと思います。

安田

「俺はこいつらとは違う」みたいな。

石塚

日本の差別構造とシンクロするイメージですね。

安田

自ら格差を生み出してる感じがしますけど。どうやったら解決するんですかね。

石塚

やっぱり会社以外での繋がりですよ。仕事がうまくいってようが、うまくいってなかろうが、地域でまた別の役割があったり。

安田

たとえば?

石塚

地域の消防団ですごく頼れる団長さんだったり。

安田

なるほど。

石塚

会社ではあんまり仕事できない人だけど、少年野球や少年サッカーの指導者としてはすごい存在感だとか。

安田

いいですね。

石塚

地域ですごく慕われていて「○○さん○○さん」って必要とされる存在。

安田

金儲けだけが社会での役割じゃないですから。

石塚

おっしゃる通り。だけどそのことに気づける場所がないんですよ。

安田

近所の世話焼きのおばちゃんも大事な存在だったんでしょうね。

石塚

昔の日本は共助の国だったんです。国としては豊かになったけど自殺者はどんどん増えた。

安田

国の豊かさを「お金」で測るということが、そろそろ限界なのかもしれません。

石塚

前回も話しましたけど、成長をどこまで追いかけるのかっていう。少なくとも人口動態でいうと日本にはもう成長はないんですよ。後退していくしかないわけです。

安田

お金としての成長を一旦置いといて、別の軸での豊かな国を目指すべきなんでしょうね。もう十分豊かだし。

石塚

お互いもっと人を頼ればいいんですよ。それが出来るのがほんとうの豊かな国なんです。

\ これまでの対談を見る /

石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

感想・著者への質問はこちらから