第173回「誰も言わないホントの話」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第172回「石塚クラスが始まるってよ」

 第173回「誰も言わないホントの話」 


安田

今回も自民党が勝ちましたね。さすがに単独過半数は無理だろうと思ってました。

石塚

予想どおりですね。

安田

そのへんの話をお聞きしたいです。そもそも自民党が勝ちつづけるのはなぜだと思いますか?

石塚

ウーロン茶を選ぶ心理ですよ。

安田

ウーロン茶?

石塚

「他に積極的に飲みたいものはないから、まあウーロン茶でいいか。ウーロン茶ひとつお願いします」っていう、そういう感覚で選んでる。

安田

でも今回はいろんな政権批判があって、首相交代までしたわけですよ。

石塚

まあね。

安田

にもかかわらず投票率もかなり低くて。50%近くはいくと思ってました。

石塚

前にも一度、政権選択をしてるじゃないですか。2008年の民主党の政権奪取で。

安田

はい。

石塚

あの3.11の悲惨な経験がトラウマになってるんですよ。このコロナで大変なときに「またあんなのが政権取ったら東日本大震災みたいになるぞ」って。

安田

なるほど。

石塚

だから「基本的には自民党でお願いします」ってことだと思います。

安田

つまり無難な選択ってことですか。

石塚

他に選択肢がないから。

安田

大きな変化を望んでないってのもありますよね。

石塚

はい。だから「本当に示さなければいけない争点」をみんな隠してるわけです。

安田

本当の争点?なんですかそれは。

石塚

人口減少における切実な社会変化をどう考えるのか。これをどの党も示さない。

安田

みなさん前向きな発言をしてましたけど。

石塚

前向きな話しかできないんですよ。つまり後退戦略に関しては何も言ってないってこと。

安田

なるほど。

石塚

ただ予兆は出てます。岸田総理が就任のときに「分配」「分配」って言ったでしょ。

安田

言ってました。

石塚

分配がテーマになるってことは、「もう成長がない」っていう証拠です。

安田

「いかに増やすか」じゃなく、限りあるものを「どう分配するか」だと。

石塚

会社も同じで、「コピーは裏まで使え」「カラーコピーは使うな」って経費に制限が入る会社は、間違いなく業績が悪い。

安田

堅実な会社かもしれませんよ。

石塚

業績がよかったらそんな細かいこと言わないです。「石塚くんがタクシーで営業に行きました」「まあ、そんなもんだろ」みたいな。

安田

とくに営業経費は緩くなりますよね。

石塚

分配がテーマになるってことは、もう成長してない、後退局面であるっていう象徴なんですよ。

安田

たとえば少子化に対して「いかにして人口を増やすか」「少子化を止めるか」という話をみなさんしますよね。

石塚

本当は「もう少子化は止められない」「「減っていく人口のなかで、どうやって細々と暮らすか」「もう1回設計しなおそう」ってことを言わないといけない。

安田

それを言っちゃうと選挙で勝てないってことですね。

石塚

おっしゃる通り。

安田

ということは、国民がその話を拒否してるってことじゃないですか。

石塚

そういうことですね。

安田

目先の利益に食いつく人が多いってことでしょうか。

石塚

厳しい話はメディアも取り上げないし。

安田

そういう話こそちゃんと取り上げてほしいですよ。

石塚

国民が見たくないものは視聴率が稼げないから。政治家も都合が悪いし。お互い思惑が重なるので、そういうことを争点にしないんですよ。

安田

恐ろしいことですね。

石塚

もはやショーみたいになってて。本当に争点にしなければいけないテーマを全員が避けてる感じ。

安田

避けてるけど心の中ではみんな分かってるんでしょうね。

石塚

いやいや。ほとんどの日本人は認めてないと思います。

安田

そんなことないでしょう。

石塚

僕はそう思いますね。だって成長戦略の話ばっかりじゃないですか。

安田

みんな本気で成長を目指してるんでしょうか。

石塚

基本的にはそうですね。ただ地方の人口減、あるいは税収の減り方って、もうはっきりと数字として出てきてますから。

安田

そこに対してはどうしていくんでしょう。

石塚

「手の施しようがありません」ってことだと思う。

安田

そんなこと言えませんよね。

石塚

言えないですよ、もちろん。

安田

言えないけど、実際には「もう無理だ」と思ってる?

石塚

政治家と霞が関は「無理だ」とわかってるし、そこで合意してると思います。

安田

成長戦略の中に地方はもはや入ってないと。

石塚

日本全土を均等に成長させるのは、とっくの昔にあきらめてると思います。

安田

なんと。

石塚

だって無理だもん。

安田

ということは人口を都心部に集める?

石塚

たとえば限界集落は事実上もう切り捨ててますよね。

安田

インフラがなくなってきたり。

石塚

そのとおりです。「行政サービスは日本全国どこに住んでも均一に受け取れる」っていうのが建前だけど、税収が減ってるから橋や道路の補修もままならない。

安田

そうなりますよね。

石塚

そうすると人々は地方の中核都市に移動せざるをえない。

安田

地方の中核都市は残るんですか。

石塚

いずれ中核都市も消滅するかもしれません。税収の多いところでしか行政サービスは成り立たないですから。

安田

なんと。

石塚

日本の税収の7割は首都圏なわけですよ。そして今から40年後に日本国民は3,500万人になるっていう試算があるわけです。

安田

そうなったら首都圏だけで十分だと。

石塚

だけど、そういう話は誰も争点にしない。ひょっとしたら40年後、本当にそうなるかもしれないのに。

安田

福岡のとんこつラーメンもなくなっちゃう?

石塚

現実的には地方の第一都市だけ残して道州制みたいになるしかない。広島・岡山を合わせて、かろうじて残るみたいな。

安田

江戸時代も人口は少なかったですけど、そんな極端な都市集中じゃなかったですよ。

石塚

日本にはそういう歴史があったわけです。だけど「もう1回スローダウンして、江戸時代的なスローライフを令和でつくろうよ」って誰も言わないんです。

安田

これだけ便利な日常を誰も捨てたくないですからね。

石塚

だけどそれを維持することはもう不可能なんです。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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