あるリフォーム会社の新しいブランドの立ち上げと、それに伴うオウンドメディア制作のお手伝いをしている。
オウンドメディアの編集長をしているのは、鈴木さんという20代の女性社員である。
オウンドメディアのクオリティを決定するのは、コンテンツの内容と更新の頻度である。コンテンツやイベントを企画し、人と会い、取材をし、外部のスタッフを動かしながら日々記事を更新し、SNSなどを使って発信していく。
これらをほぼ一人でこなしていく編集長は多忙であるが、鈴木さんはじつにテキパキとこなしていく。新卒で入社して以来、営業一筋だった鈴木さんに編集経験はない。
「鈴木さん、やるねぇ」と私が言うと、「えへへ。じつは、わたし、高校のとき新聞部で、こういうの大好きだったんです」と、鈴木さんのふっくらとした目尻が笑う。
プロジェクトが始まったとき、正直、鈴木さんの印象は薄かった。
「まあ、男ばっかりでもなんだし、新卒の若い女の子も一人、入れとくか」という感じでアサインされた印象だった。発言も控えめで、社長や部長になにかを聞かれたら答えるという感じであった。
そんな鈴木さんであったが、オウンドメディアを立ち上げることになり、コンセプトが決まり、続いてネーミングやロゴが決まり、デザインの形が見えていくにつれて、どんどん積極的になっていった。
そして、終盤。「ところで、編集長はだれにしようか」という話になったとき、「わたしにやらせてほしい」と手を上げたのだった。
オウンドメディアのコンテンツの1つに、鈴木さん自身の名前が付いたものがある。彼女が会いたいと思う「こだわりの人」を見つけ、訪ねてインタビューを行うコンテンツである。
「会いたい人がたくさんいて困ります。えへへ」
出会ったときとは見違えるように生き生きとした彼女が、そこにいる。
「わたしに編集長をやらせてほしい」と手を上げたとき、彼女は誰かと交換可能な「会社の人」から、世界に一人しかいない「鈴木〇〇」になったのだと思う。