日曜日には、ネーミングを掘る #038 シャイン・アーティスト

今週は!

12月になり、いろいろと振り返りの季節となってきました。先日は年末恒例の本の年間ベストセラーも発表され(1位は『君たちはどう生きるか』でしたね)、ふむふむ今回は書籍のタイトルについて掘ってみようかしらんと思っていたのですが、facebook友だちの一人がウォール・ストリート・ジャーナルに掲載されたネーミングに関する興味深い記事をシェアしてくれたので、こちらについて書いてみたいと思います。

記事は仕事の肩書に関するもので、米国では最近、新たな応募者を惹きつけ、退屈な企業イメージを刷新する目的で、新たな職種名を採用する企業が増えているという内容でした。

事例として2つの企業が紹介されています。

1社目は、「データアナリスト」を「データラングラー」と変えた金融サービス会社。ジーンズメイカーの社名にもなっているWranglerは、牧場で乗用馬を世話する人の意。データラングラーは、データのお世話をする人ということになりますが、この会社では職種名を変えることで、若い応募者に対して「古くて偏屈」ではなく、リスクを恐れないイノベーティブな会社であることをアピールできるようになったといいます。

もう1社は、靴磨きのチェーン店(日本でいうならMISTER MINITといったところでしょうか)。この会社では、店舗スタッフを「シャイン・アーティスト」と呼ぶようにしたことで、スタッフが自らの仕事を単調で味気ない仕事ではなく、インタラクティブかつクリエイティブな仕事だと認識するようになったという調査結果を掲載しています。

記事が紹介していることは、日本を含めいまに始まったことではないと思いますが、働く上で仕事の肩書は重要な要素の1つですよね。とくに採用に苦労している中小企業は、戦術の一つとして真剣に考えてみてもよい視点かと思います。

駆け出しのコピーライターで求人広告の制作をしていたころ、いわゆる募集職種というやつが嫌いでした。営業も、総務も、一般事務も。どこの会社も同じで、つまらんあなぁと思っていました。「ルートセールスって、なんだよ」「いや、あの、穀物を扱っている小売店を回ってですね」「配達だけすんの」「いや、配達がメインなんですが、店長さんと話をして悩みとかあったら相談にのってですね、解決できるようなことはしたりもする仕事です」「ルートセールスじゃねーじゃん。だったら、そういう職種名にしようぜ」などと、営業担当と小争いしたことを思い出します。べつに懐かしくはありませんが(笑)

職種のネーミングを開発する際に難しいのは、「新しさ」と「怪しさ」は紙一重ということです。前者は、期待につながりますが、後者は疑いをもたらします。例えば、営業職が採用できないからといって、「夢叶人」とかにしてしまったら、もうおしめーよという話ですね。私も、いつもこのあたりのさじ加減に悩みます。

お手本にしているのは、いまは亡き真木準さんというコピーライターが三越伊勢丹のために開発した「サムタイマー」という職種。文字通り「ときどき働ける人」というわけですが、パートでもなくアルバイトでもなく、従来のイメージにかろやかな羽をつけてしまったところが、じつに見事。

感想・著者への質問はこちらから