さよなら採用ビジネス 第26回「役職定年と大企業の苦悩」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第25回「お金ではない報酬とは」

 第26回 「役職定年と大企業の苦悩」 


安田

40歳をめどに「大企業は人を減らしていきたい」って言ってましたよね?

石塚

はい。それが本音だろうと思います。

安田

でも実際、危機感を持ってるのって、20〜30代な気がするんですよ。

石塚

上の世代は危機感を持っていないと?

安田

不安はあるんでしょうけど「自分は逃げ切れるだろう」くらいに思ってる。

石塚

安田さんの周りでは、何歳ぐらいの人が「逃げ切れる」と思ってるんですか?

安田

40代後半〜50代ですかね。

石塚

逃げ切れると、みなさん思ってるんですか?

安田

思ってますね。だってぜんぜん、危機感を感じませんもん。

石塚

はぁ~。自分の認識とはズレてるな〜

安田

じゃあ、石塚さんの認識では、逃げ切れる年齢はズバリ何歳までですか?

石塚

60歳はOKかな。

安田

60歳って、もう定年じゃないですか(笑)

石塚

はい。だからギリギリ逃げ切れる。

安田

たとえば現在55歳の人って「60歳までは大丈夫。その後も何年かは雇ってくれるだろう」くらいな感じだと思いますよ。

石塚

会社によっては55歳、なんとかなる可能性はあります、なんとか。

安田

企業も揉めたくないんで、採用を抑制して自然減を狙うんじゃないですか?

石塚

そうですけど、経営者レベルでは今すごい危機感なんですよ。

安田

オリンピック景気が終わった後ということですか?

石塚

いえ「オリンピック前に景気が下がる」と、みんな言ってます。経営者は。

安田

オリンピック前ですか?

石塚

過去のデータでは「1964年のオリンピック景気」って、前年に終焉したんですよ。

安田

ということは、もう今年じゃないですか。

石塚

だから、みんな「来るぞ、来るぞ」っていう。奇しくもリーマンショックから10年なんですよね。

安田

リーマンショックは2008年でしたよね?

石塚

日本に深刻に広がったのは2009年。黒一色みたいな感じになったじゃないですか。

安田

はい、なりましたね。2009年2010年は地獄でしたね。

石塚

みんな滑落を経験してるだけに、用心深いですよ。

安田

なるほど。

石塚

大企業も、あれだけクレイジーに内部留保貯めるっていうのは、近々くる大地震への備えだと思いますね。

安田

もう、覚悟していると。

石塚

はい。だから高額人件費をとにかく減らしたい。新宿の某有名百貨店も、信じらんないぐらいの金額を出して希望退職募ってるじゃないですか。

安田

いくらぐらい出るんですか?退職金。

石塚

割増分だけで4000~5000万。

安田

5,000万割増を出してでも、企業にはメリットがあると?

石塚

ありますよね。だって、5,000万で終わるじゃないですか。

安田

でも5000万ですよ?

石塚

安田さんだったら、1,000万プレーヤーを5,000万で何年雇えます?社会保険とか諸々の経費も入れれば。

安田

3年半ってとこですかね。

石塚

ですよね。だから、それ以上雇うんだったら5000万でも安い。

安田

ということは、あと3年で退職みたいな人は、無理矢理切らないってことですか?

石塚

本当は、いちばん切りたいでしょうけどね。5000万払ってまでは切らないでしょうね。

安田

希望退職に応じない人だって、たくさんいますよね?

石塚

だから「役職定年」を設けてるんですよ。50代は段階的に給与が下がって行きます。

安田

役職定年?

石塚

企業によって違いますけど「部長は53歳まで」とか決まってるんですよ。

安田

そこを過ぎると部長じゃなくなる?

石塚

はい。定年で役職を外れると、給料が3割〜5割減になるわけです。

安田

そんなに下がるんですか?

石塚

そのくらいは普通ですね。

安田

役職がなくなると何になるんですか?平社員ですか?

石塚

平社員っていうか、役職がなくなるだけ。

安田

役職がなかったら平社員じゃないですか。

石塚

まあ、呼称をどうするかは、別問題ですけど。

安田

何か名前つけるんですか?

石塚

会社によりけりですよね。無難な名前つけてる会社さんのほうが多いですけど、中には外す場合もありますよ。

安田

へぇ。それって労働法的にはOKなんですか?

石塚

本人が同意していれば。不利益変更の原則に抵触しなければOKです。

安田

抵触するじゃないですか。すごい不利益だと思うんですけど、役職外されるっていうのは。

石塚

でも、あんまり揉めませんね。

安田

揉めないんですか!?

石塚

だから合意してるっていうことですよ、労働組合と。

安田

え!労働組合が、そんなことに合意するんですか?

石塚

はい。今は労使協調路線ですから。

安田

労働組合って「ストライキ起こしてでも社員の給料を上げてくれる」というイメージなんですけど。

石塚

いつの話をしてるんですか?そんなの昭和40年代で終わってますよ(笑)

安田

そうなんですか!(笑)

石塚

だって、この10年「どこでストライキ」とか「ピケ張った」とか聞いたことあります?安田さん。

安田

確かに。聞いたことないですね(笑)

石塚

ないですよね。だって、まず4月に電車が止まんないでしょ、ストライキで。

安田

なぜ、なくなったんですか?ストって。

石塚

労働組合が御用組合化して、「労使協調路線で行こう」と連合もぜんぶ舵切ったからですよ。もうだいぶ前です。

安田

なんで、そんな舵切ったんですか?

石塚

うまみがあるからでしょうね。

安田

うまみがあるんですか?

石塚

あります。

安田

それは連合とか労働組合のトップの人に、うまみがあるってことですか?

石塚

その通りです。

安田

そうなんですか!

石塚

はい。「労働貴族」という言葉があって、労働組合からお金もらって専門に活動をやるところの幹部って、実はものすごくいい暮らししてるんですよ。

安田

労働組合に入る人が減っているのは、何もしてくれなくなったからですか?

石塚

労働者の意識はだいぶ変わりました。非正規雇用の人も増えたし、組合費も払わなくちゃならないし。

安田

組合費?

石塚

払うんですよ。某電鉄会社さんの1か月の組合費、いくらか知ってますか?

安田

1,000円ぐらいですか?

石塚

安田さん、それ、ぜんぜん違います(笑)。7万ぐらい払うんですよ。

安田

えっ!?そんなに?

石塚

メーカーでも4〜5万なんてザラですよ。

安田

年間ですか?

石塚

いやいや、月間ですよ。

安田

なんと!?

石塚

組合費って結構高いんですよ。それが毎月吸い上げられて労働組合ができるわけです。

安田

その分給料もらったほうがいいじゃないですか。

石塚

だから組合加入率は下がってるんですよ。

安田

なるほど。

石塚

昔は「総資本対総労働」なんて言われて、三井三池炭鉱とか本当に死人が出たんですよ。でも世の中、変わっちゃった。

安田

ヨーロッパとかアメリカは、今もデモがあったりするじゃないですか。

石塚

はい。でも日本人はやらない。

安田

日本人の気質ですか?それって。

石塚

資本側が「上手く洗脳しちゃった」ということじゃないですか。

安田

洗脳ですか!

石塚

だから、役職定年で給料下がったって、ストどころか、みんなそれでOKなんです。

安田

会社に歯向かって訴える人とか、いないんですか?

石塚

辞めなきゃいけなくなるんで。

安田

条件悪くなっても、しがみついていたいと?

石塚

そうです。だから50代入るとだいたい役職定年です。

安田

50代で大きく収入が減っていく?

石塚

そうです。だいたい3割ぐらい減ります。

安田

それだけ下がっても、やっぱり整理しないといけないんですか?

石塚

できれば40代後半はおいとま願いたい。生産性とかかるコストが、どうみても見合わない。

安田

それに見合う優秀な人だって、いると思うんですけど。

石塚

希望退職募ると、そういう優秀な人から辞めてくんですよ。

安田

役職に見合わない人ばかりが、しがみついて残ってしまうと?

石塚

そういうことです。


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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