この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。
社会保険について、聞きたいんですけど。
はい。なんでしょう?
あれって会社の義務なんですか?
そうですね。法的には会社の義務です。
義務ってことは、社会保険入ってない会社はない?
小さな会社は、入ってないとこ多いです。
それって違法ってことですよね?
はい。最近は厳しくなって、減ってきましたけど。
かなり昔に「社員数10人以上になったら、入らなきゃいけない」みたいに言われた記憶があるんですけど、それ間違いですか。
ある一部の個人事業で5人未満の業種に関しては、入らなくていいという免除があります。
どういう業種なんですか。
たとえば士業事務所とか。
入らなくていいんですか?
はい。法人は駄目ですけどね。法人は全て強制加入です。
じゃあ、株式会社だったら、社員が1人でもいたら入らなきゃいけない。
その通りです。
正社員じゃない場合はどうなんですか?派遣とかパートとか。
要件を満たしていたら、入らなきゃいけないですね。
どういう要件なんですか?
4分の3要件というのがありまして、週の所定労働時間の4分の3以上働いてるパート、アルバイト、契約社員は入らなきゃいけないです。
なるほど。正社員だったら、時間関係なく入んなきゃいけない?
正社員の労働時間が、所定労働時間なんですよ。
おお、そういうことですか。
所定労働時間の4分の3を超えたら、全員入んなきゃダメです。
本人が入りたくないって言っても?
逆選択はできないです。
じゃあ、社会保険に入りたくない場合は、労働時間を抑えることになるわけですね?
そうですね。
ちなみに、なぜ会社は社会保険に入らないといけないんですかね。
だから法律で決まってるんですよ。
そこが納得がいかないんですよ。社員の社会保険の半分を会社が負担しないといけないなんて、世の経営者はよく黙ってますね。
安田さんは払ってなかったんですか?
いや、私も払ってましたけど。それはもう仕方なく。
みなさん同じじゃないですか。
仕方ないから払っているだけだと。
法人の利益だけを考えたら、無駄ですもんね。
無駄というより、納得がいかないんですよ。だって年金とかも入ってますよね?
入ってますね。
それって、老後の積立みたいなもんじゃないですか。
積立ではないですけど、まあ、そういう感覚でしょうね。
それが個人の給料から引かれるのは分かるんですけど。残りは、国が出すべきじゃないんですか?何で会社が出すんですか?
どうしてでしょうね?
これって、どこの国でもそうなんですか?
日本だけではないです。例えばドイツも会社負担がありますが、それが国家の成長を妨げているとして大改革が起こっていますね。
今の制度って、いつ頃からあるんですか?
戦後からですね。昭和二十何年かだったと思います。
経営者は反対しなかったんですか?
所得税も本来個人から徴収するものを、会社がわざわざ集めて国に治めますよね?
はい。そうですね。
終身雇用もそうですけど、そこに疑問を感じないのが「普通の概念」だったんでしょうね。
普通の概念?
日本の経営者って「会社は公器だ」という考え方じゃないですか。今はグローバルになってるんで、変わって来ましたけど。
「国家のために」みたいな。
そういう感じって、あるじゃないですか。
それ洗脳ですよね?
洗脳だと思いますよ。
そうですよね。
ただ、「社員は家族だ」みたいな感覚も強いです。「家族の健康を守るのは、経営者の責任だ」みたいな。
家族というわりに、社長の家と社員の家、だいぶ大きさ違うじゃないですか。車だってぜんぜん違います。
はは(笑)家族だったら、ありえないと。
家族的な経営も国策だったんですか?それとも、元々の日本文化ですか?
国策というか、GHQの戦略だと思うんですけど。そういう話でいうと、解雇規制って面白いと思いませんか?
解雇規制が面白い?
日本って、戦争に負けて、アメリカ人が作った国じゃないですか。
そんなこと言ったら、怒られますけどね。間違いなくそうですよね。
アメリカって、解雇オッケーな国ですよね。でも、日本では解雇はできないみたいな。
確かに。なぜなんでしょうね。
そういう労働制度の中でやると「産業ってどうなるんだろう?」みたいな。
え!実験ですか?
「壮大な実験のもと、日本という国が始まった」という説もあります。
戦前は、解雇はオッケーだったんですか?
経営者のほうに裁量権があって、解雇が簡単にできたと思います。訴える方法もなかっただろうし。
ってことは、アメリカが解雇を禁止して、どういう国になるのか実験が始まって、ここまで来ちゃったと?
そしたら、思いのほか「国が伸びてるじゃん」と。でも、ここにきて、やっぱ足かせになってるわけですよ。この解雇規制っていうのは。
なってますか。
なってますよね。解雇規制や終身雇用がいいのは、経済が安定的に成長している時だけなんですよ。
戦後からバブルまでの日本ですね?
そうです。人が増えていくことによって、製造業などでは技能が積み上がり、ノウハウも蓄積されていく。
でも今のような変革期には、向いていない?
ビジネスモデルが日々変化する時代になっても、新たな仕組みにシフトできないようになってます。
本当は時代に合わせて、変わっていかなきゃいけない?
そうなんですけど、分かっていても「変えられなくなっちゃってる」んですよ。日本は。
分かっていても、変えられない?
そういう足かせで、がんじがらめにされてます。
やっぱ政治主導というか、「政治生命をかけてこの法案を通す!」みたいな総理大臣が出て来て欲しいですね。
たぶん「解雇オッケー」「年金は70歳まで払わない」って、言った途端に選挙で負けますね。
久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は地元である岐阜県多治見市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。