第8回「社会保険制度は誰が作った?」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第8回「社会保険制度は誰が作った?」

安田

社会保険について、聞きたいんですけど。

久野

はい。なんでしょう?

安田

あれって会社の義務なんですか?

久野

そうですね。法的には会社の義務です。

安田

義務ってことは、社会保険入ってない会社はない?

久野

小さな会社は、入ってないとこ多いです。

安田

それって違法ってことですよね?

久野

はい。最近は厳しくなって、減ってきましたけど。

安田

かなり昔に「社員数10人以上になったら、入らなきゃいけない」みたいに言われた記憶があるんですけど、それ間違いですか。

久野

ある一部の個人事業で5人未満の業種に関しては、入らなくていいという免除があります。

安田

どういう業種なんですか。

久野

たとえば士業事務所とか。

安田

入らなくていいんですか?

久野

はい。法人は駄目ですけどね。法人は全て強制加入です。

安田

じゃあ、株式会社だったら、社員が1人でもいたら入らなきゃいけない。

久野

その通りです。

安田

正社員じゃない場合はどうなんですか?派遣とかパートとか。

久野

要件を満たしていたら、入らなきゃいけないですね。

安田

どういう要件なんですか?

久野

4分の3要件というのがありまして、週の所定労働時間の4分の3以上働いてるパート、アルバイト、契約社員は入らなきゃいけないです。

安田

なるほど。正社員だったら、時間関係なく入んなきゃいけない?

久野

正社員の労働時間が、所定労働時間なんですよ。

安田

おお、そういうことですか。

久野

所定労働時間の4分の3を超えたら、全員入んなきゃダメです。

安田

本人が入りたくないって言っても?

久野

逆選択はできないです。

安田

じゃあ、社会保険に入りたくない場合は、労働時間を抑えることになるわけですね?

久野

そうですね。

安田

ちなみに、なぜ会社は社会保険に入らないといけないんですかね。

久野

だから法律で決まってるんですよ。

安田

そこが納得がいかないんですよ。社員の社会保険の半分を会社が負担しないといけないなんて、世の経営者はよく黙ってますね。

久野

安田さんは払ってなかったんですか?

安田

いや、私も払ってましたけど。それはもう仕方なく。

久野

みなさん同じじゃないですか。

安田

仕方ないから払っているだけだと。

久野

法人の利益だけを考えたら、無駄ですもんね。

安田

無駄というより、納得がいかないんですよ。だって年金とかも入ってますよね?

久野

入ってますね。

安田

それって、老後の積立みたいなもんじゃないですか。

久野

積立ではないですけど、まあ、そういう感覚でしょうね。

安田

それが個人の給料から引かれるのは分かるんですけど。残りは、国が出すべきじゃないんですか?何で会社が出すんですか?

久野

どうしてでしょうね?

安田

これって、どこの国でもそうなんですか?

久野

日本だけではないです。例えばドイツも会社負担がありますが、それが国家の成長を妨げているとして大改革が起こっていますね。

安田

今の制度って、いつ頃からあるんですか?

久野

戦後からですね。昭和二十何年かだったと思います。

安田

経営者は反対しなかったんですか?

久野

所得税も本来個人から徴収するものを、会社がわざわざ集めて国に治めますよね?

安田

はい。そうですね。

久野

終身雇用もそうですけど、そこに疑問を感じないのが「普通の概念」だったんでしょうね。

安田

普通の概念?

久野

日本の経営者って「会社は公器だ」という考え方じゃないですか。今はグローバルになってるんで、変わって来ましたけど。

安田

「国家のために」みたいな。

久野

そういう感じって、あるじゃないですか。

安田

それ洗脳ですよね?

久野

洗脳だと思いますよ。

安田

そうですよね。

久野

ただ、「社員は家族だ」みたいな感覚も強いです。「家族の健康を守るのは、経営者の責任だ」みたいな。

安田

家族というわりに、社長の家と社員の家、だいぶ大きさ違うじゃないですか。車だってぜんぜん違います。

久野

はは(笑)家族だったら、ありえないと。

安田

家族的な経営も国策だったんですか?それとも、元々の日本文化ですか?

久野

国策というか、GHQの戦略だと思うんですけど。そういう話でいうと、解雇規制って面白いと思いませんか?

安田

解雇規制が面白い?

久野

日本って、戦争に負けて、アメリカ人が作った国じゃないですか。

安田

そんなこと言ったら、怒られますけどね。間違いなくそうですよね。

久野

アメリカって、解雇オッケーな国ですよね。でも、日本では解雇はできないみたいな。

安田

確かに。なぜなんでしょうね。

久野

そういう労働制度の中でやると「産業ってどうなるんだろう?」みたいな。

安田

え!実験ですか?

久野

「壮大な実験のもと、日本という国が始まった」という説もあります。

安田

戦前は、解雇はオッケーだったんですか?

久野

経営者のほうに裁量権があって、解雇が簡単にできたと思います。訴える方法もなかっただろうし。

安田

ってことは、アメリカが解雇を禁止して、どういう国になるのか実験が始まって、ここまで来ちゃったと?

久野

そしたら、思いのほか「国が伸びてるじゃん」と。でも、ここにきて、やっぱ足かせになってるわけですよ。この解雇規制っていうのは。

安田

なってますか。

久野

なってますよね。解雇規制や終身雇用がいいのは、経済が安定的に成長している時だけなんですよ。

安田

戦後からバブルまでの日本ですね?

久野

そうです。人が増えていくことによって、製造業などでは技能が積み上がり、ノウハウも蓄積されていく。

安田

でも今のような変革期には、向いていない?

久野

ビジネスモデルが日々変化する時代になっても、新たな仕組みにシフトできないようになってます。

安田

本当は時代に合わせて、変わっていかなきゃいけない?

久野

そうなんですけど、分かっていても「変えられなくなっちゃってる」んですよ。日本は。

安田

分かっていても、変えられない?

久野

そういう足かせで、がんじがらめにされてます。

安田

やっぱ政治主導というか、「政治生命をかけてこの法案を通す!」みたいな総理大臣が出て来て欲しいですね。

久野

たぶん「解雇オッケー」「年金は70歳まで払わない」って、言った途端に選挙で負けますね。


久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は地元である岐阜県多治見市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

感想・著者への質問はこちらから