第8回 これからの日本経済

この対談について

国を動かす役人、官僚とは実際のところどんな人たちなのか。どんな仕事をし、どんなやりがいを、どんな辛さを感じるのか。そして、そんな特別な立場を捨て連続起業家となった理由とは?実は長年の安田佳生ファンだったという酒井秀夫さんの頭の中を探ります。

第8回 これからの日本経済

安田
日本からGAFAは出ないとかよく言われますけれども、酒井さんから見るとどうですか?

酒井
それは難しい質問ですけど、出る余地は全然あると思いますね。
安田
ありますか。でもすぐ叩かれちゃうじゃないですか。例えばイーロン・マスクがもし日本人で、日本であれをやってたらもう牢屋に入ってるんじゃないかと。

酒井
それはWinnyの金子さんの例もありますし、実際そうだと思います。ただ、同じ形じゃなくても、別の成長ストーリーみたいなことは十分ある気はしますね。
安田
どんな成長ストーリーですか?

酒井
例えばUNIQLOの柳井さんとかは、日本で基盤を整えてから海外を攻めて、今はもう海外でも他のファストファッションにだいぶ勝ってきてますよね。
安田
そうですね。ZARAとUNIQLOの2強ぐらいになってますね。

酒井
UNIQLOの製品はもう日本では作ってないですし、海外店舗の店長はみんな外人さんなので、そういう意味では、アパレル界のGAFAみたいなことをやってるとも言えます。
安田
確かに、進め方を見るとそうですね。

酒井
ただ、法規制があってなかなか新しいことができないような分野には、この進め方は向いてないのかもしれないです。
安田
例えばテクノロジー関係だと、日本の孤立した環境で商品を作って、それを世界で売るってなかなか無理がある気がするんですけど。

酒井
テクノロジーの世界だとアメリカと中国が異常なんですよ。ただ、中国がIT業界を守ろうとしている状況が、少しずつ破綻してきているんです。そうするとアメリカと日本とEUという戦いになる。
安田
へえ、そうなんですね。

酒井
AIについての議論をすると、EUの方々って「AIが意思決定をするなんて」というところで議論が止まるらしいんですよ。キリスト教徒の国なので、神よりも偉いものがあることが受け入れられない。
安田
えっ、現代でも?欧米でAIが危険視されてるのは、神を超えてしまうかもしれないということなんですね。

酒井
まあ、日本人はその辺寛容ですからね。もしかしたら今後アメリカが反発を受けた時に、日本が今のAI技術を使っていいものを作れる可能性は結構あるかもしれないです。
安田
なるほど。日本人の「結婚式はキリスト教で、葬式は仏教で」みたいな節操のなさが、AI時代には非常に生きてくるかもしれない。

酒井
あとは価値観ですね。自動運転で事故が起きたら誰の責任か、というルール作りでも、EUは「神と人」っていう世界観でずっとやってきているので、機械の責任という概念がそもそもない。
安田

ああ、それで言うと、中国は別に事故が起きてもドンマイ的な世界観がありそうな感じがしますね。


酒井
そうですね。そこで、もう自由に訴訟でバンバンやればいいっていうアメリカの世界観と、鷹揚な日本の世界観が残ったら、「アメリカ対日本世界連合」みたいな対立になる可能性があるんですよ。
安田
アメリカの世界観もまた極端ですからね。

酒井
アメリカのルールはちょっと極端すぎて適用できないとなった時に、日本が人とテクノロジーの間に立って、うまくコントロールしながら影響力をもっていくようなことはありそうな気がします。
安田
でも自動運転なんか、中国のあのトップダウンでやられたら追いつきようがない気がするんですけど。

酒井
テクノロジーで言うとたぶんそうなんですけど、中国って国がけしからんって言った瞬間に、国内の数兆円くらいのベンチャーが一夜にして無価値になったりするので。
安田
トップダウンだからそれができちゃうわけですね。

酒井
ある程度儲かると中国から睨まれて何もできないとなると、そんな国に投資とかテクノロジーとかエンジニアが集まるかというと。
安田
まあ、他へ行くでしょうね。

酒井
アメリカを選ぶか日本を選ぶか、他を選ぶかっていう時に、もしかしたら日本が一番開発しやすいんじゃないのと。
安田
確かに日本人が何かやると叩かれるけど、外国の人が日本に来てやる分には案外心地いいかもしれませんね。

酒井
色々その辺の組み合わせで、もしかしたらちょうどいい国になる可能性っていうのは残ってる気がするんです。ちょっと楽観的過ぎるかもしれませんが。
安田
それって日本からウォークマンが出てきたみたいな話とは違って、世界の中で「戦いやすい便利なマーケット」になっていくって感じですよね。

酒井
そうです。今は働く人がやる気を持って働ける環境づくりが一番大事だと思いますので、それを他の国が提供できているのかとなると、もしかしたら日本がエンジニアの集まる国になるかもしれない。
安田
日本は自分が今いる会社とか仕事が嫌いな人が、先進国の中で一番多いって言われてますよね。でもなんだかんだ言って日本は居心地がいいってことなんですかね(笑)。

酒井
そうですね(笑)。この10年20年の節目では、何か変わる余地があると思ってます。悲観論もありますけど、他の国もそれなりに傷を負ってるので、相対的に見たら勝てる要素もあるのかなと。
安田
イメージ的には日本からイーロン・マスクが出てくるって言うより、イーロン・マスクみたいな人が日本で事業を立ち上げるようになるということですね。

酒井
そうですね、その方がいい気がしますね。
安田
なるほど。今後こういう規制緩和は行われていくんですか?

酒井
目立たないようにですけど、ちょっとずつ起きてる気はします。
安田
企業のトップにしてみれば、人件費が安くて治安も良くてっていうことで、日本は事業を始めるのにはいいのかもしれないですね。

酒井

グローバル企業は税金なんかはうまくコントロールするでしょうから、いい人が集まってみんなが働きやすい環境を作れるとか、治安がいいとかが競争で優位になる可能性はありますね。

安田

じゃあ、GAFAが日本に本社を持ってくるっていう可能性もあるんですかね。


酒井
あるんじゃないですかね。
安田

なるほど…。そんなこと考えたことなかったですね。


酒井

システム開発では、中国の仕事の一部をもらう動きがもう出てきてますからね。これが進んで日本は拠点として価値があるとなったら、日本に立地しようっていう会社が増えますよ。

安田
なるほど、じゃあもうこの10年でガラッと常識が変わっちゃうかもしれないですね。
酒井

かもしれませんね。

 

 


対談している二人

酒井 秀夫(さかい ひでお)
元官僚/連続起業家

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経済産業省→ベイン→ITコンサル会社→独立。現在、 株式会社エイチエスパートナーズライズエイト株式会社株式会社FANDEAL(ファンディアル)など複数の会社の代表をしています。地域、ベンチャー、産官学連携、新事業創出等いろいろと楽しそうな話を見つけて絡んでおります。現在の関心はWEB3の概念を使って、地域課題、社会課題解決に取り組むこと。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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