第212回「教育と国家の未来像」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第211回「回転寿司こそが究極!?」

 第212回「教育と国家の未来像」 


安田

東工大と東京医科歯科大が統合するそうですね。「研究費を増やすため」と書いてありましたけど。

石塚

いま大学って、独立行政法人という形になっていまして。

安田

昔は違ったんですか。

石塚

昔は国が普通に大学に予算をつけていたんですよ。今は独立行政法人に対して国が運営費を出す形になっていて。

安田

へえ〜。

石塚

要するに今回の統合は、2つ合わせて規模を大きくしたほうが、バーンと予算が取れると。

安田

統合したら国に予算を削られたりはしないんですか?

石塚

しないです。むしろ増える。

安田

じゃあ目的は予算を増やすためですか。

石塚

ひとつはメニューを増やすことですね。東工大というのは工業大学だから、基本的にテクノロジーだけじゃないですか。

安田

そういうイメージです。

石塚

一方で東京医科歯科大学って、医学部と歯学部しかないわけですよ。だから医工連携と言って、「メディカルの最先端のために、こういう医療機器を医学部と工学部で共同開発します」とか。

安田

なるほど。

石塚

東大には両方あるわけですよ。医学部も、歯学部も、工学部も、理学部もあるわけです。

安田

ということは、これは東大に対抗するためですか。

石塚

おっしゃる通り。

安田

へえ〜。

石塚

元々東工大は理系の東大レベルだし、東京医科歯科大学は、医学部でいうと東大・京大の次ぐらいなので。

安田

そうなんですか。

石塚

はい。

安田

つまりトップ同士の合併・統合ということですね。

石塚

そうです。

安田

これによって東大を超えて、世界ランキングの上位も狙うとか。

石塚

おっしゃる通りです。ただ世界の大学と比べると予算の桁が違いますから。

安田

どれぐらい違うんですか。

石塚

今回、政府が10兆円規模の大学ファンドをつくるんですけど。指定を受けるとさらに予算が増えるので、そこを狙ってると思うんですよ。

安田

1校で10兆円もらえるんですか?

石塚

日本全体で10兆です。ファンドで10兆円って聞くと「わぁ~」って思うじゃないですか。

安田

そりゃ思いますよ。

石塚

思いますよね。だけど欧米の規模って、そんなものじゃないわけですよ。たとえばハーバードだと一校で4兆5,000億です。

安田

なんと!

石塚

こっちは日本国内ぜーんぶ合わせて10兆ですから。まあ、それでも、日本はがんばろうとしてるんだけど。ちょっと規模が違いすぎますね。

安田

いま日本企業の国際競争力が落ちつづけてますけど。新しいビジネスを日本の国力のベースにするには、教育から変えていくしかないですか?

石塚

そうですね。あとは研究資金をどうするか。国の予算を割り振ってというのも、もう限界ですよ。

安田

ハーバードは寄付なんかも凄いんでしょうけど、自分たちでビジネスをやって稼いでいますよね。

石塚

おっしゃる通りです。腕っこきの、それこそ元ゴールドマン・サックスとかのファンドマネージャーが何人も張り付いて。ハーバードの資金を運用してます。

安田

日本の大学はなぜ同じようにやらないんですか。

石塚

法律で認めていないからです。

安田

そうなんですか。

石塚

はい。あくまでも「国の予算を割り振ります」と。

安田

それは文科省が大学を仕切りたいから?

石塚

当然そうでしょうね。

安田

でも国の言うとおりにやってきた結果、これだけ競争力が落ちているわけで。

石塚

誰も自分の責任だと思ってませんから。

安田

そういうところが良くないですよね。責任の所在が曖昧というか。

石塚

それが日本という国のカルチャーですから。いろんな意味でもう敵いませんよ。

安田

本気で世界レベルのスキルをつけたいんだったら、「海外の大学に行け」ってことですか。

石塚

個人で考えるとそういう結論になりますね。

安田

国家としてはどうしたらいいんですか。

石塚

アメリカに追いつけ追い越せはもう無理でしょう。中国もたぶん難しい。だとしたら日本は「どこに絞ってやろうか」って。

安田

同じ土俵ではもう勝てないですか。

石塚

おしなべてやろうなんていっても敵わない。テーマや領域をどう選択するかが重要です。日本の強さを持っているところはあるから、いかに選択と集中させるか。

安田

大学もそこを意識しないとダメですか。

石塚

まず学生の選考の仕方から変えないと。日本はどうやって選びます?

安田

日本は筆記試験ですよね。

石塚

ハーバードは筆記試験じゃないんです。ハーバードがポテンシャルを感じて、おもしろいと思う学生をとるわけですよ。もちろんベースとなるGPAやTOEFLは測るけど。

安田

ペーパーテストだけじゃないと。

石塚

分厚い志望動機書やエッセイをいくつも出させたうえで面接する。同点で並んだら、「どっちがハーバードにとっておもしろいんだろう」ということで選ぶ。リクルートの仕方が違うんですよ。

安田

そうやって卒業した人が活躍して、ハーバードに寄付したり、ハーバードの資産を増やしたりしてるわけですね。

石塚

おっしゃる通り。卒業生もみんなハーバードのコネクションを使うし。

安田

日本でも東大コネクションとかありそうですけど。

石塚

東大はいま世界ランキング36位かな。なんとかそこにとどまってる感じ。

安田

学生の選考方法だけでそんなに差がつくもんですか。

石塚

勉強のやり方もぜんぜん違います。日本の学生は自分の意見を言うことを、すごくためらうんです。「間違ってたらどう思うだろう」とか。

安田

そんな感じですね。

石塚

だから議論がぜんぜん進まない。向こうは「こういう考え方がある」「いや、こんなのはどうだ」って、自分なりの考えや意見をガシガシぶつけ合っていく。そこが違う。

安田

そこは国民性みたいなものもあるので、難しいですよね。

石塚

教育のやり方を根底から変えないと無理ですね。日本人って平均値は高いんですよ。読み書きそろばんとか識字能力は高い。

安田

真面目ですもんね。

石塚

そう。だから工場労働者として優秀な人材はいっぱい輩出する。けど「新しいものを考える」とか「新しいものを生み出す」というような教育ではない。

安田

みんなと違うことをしたら、否定されますから。私もそれが嫌でアメリカに行っちゃいました。

石塚

アメリカの大学は楽しかったでしょう。

安田

英語で勉強するのは大変でしたけど、あれで人生が変わりましたね。

\ これまでの対談を見る /

石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

感想・著者への質問はこちらから