さよなら採用ビジネス 第38回「99%の人はもう、頑張らなくていい」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第37回「もうキャリアアップは要らない」

 第38回「99%の人はもう、頑張らなくていい」 


安田

評価制度が「現場と乖離(かいり)してる」って話ですけど。

石塚

はい。乖離してますね。

安田

基本的には、仕事を頑張れば「ポジションと収入も上がっていく」という制度ですけど。そこが既に乖離してるんですか?

石塚

そうです。

安田

ニンジンがニンジンになっていない、ということですか?

石塚

まず、マネージャーになりたいっていう人は、減りましたよね。

安田

確かに減りました。でもそれは待遇が悪いからじゃないんですか?

石塚

いやー、どうでしょうか。

安田

マネージャーになっても、ぜんぜん給料は上がらない。むしろプレイングマネージャーになって実質は減っていく、みたいな。

石塚

というより「給料が上がること」へのモチベーションが、ごそっと抜けてる感じがするんですよ。

安田

やっぱり、そこですか。

石塚

はい。そもそも生活コストを上げるつもりがないから。

安田

じゃあ、どうしたいんですか?

石塚

自分にストレッチをかけることなく、いつも余裕のある状況にしておきたい。

安田

給料は上がらなくてもいい?

石塚

緩やかに、なだらかに、上がっていけばいいんじゃないの、と。

安田

生活レベルを上げるために「頑張って稼ぐぞ!」みたいな人は、もういない?

石塚

いまの収入でも「そこそこ楽しい暮らし」をしているので。増えたら増えたでいいし。

安田

増えなかったら増えなかったで「まあいいか」みたいな。

石塚

だって「家は買いません」「車も所有しません」で、「土日は好きな仲間と集まって、そんなにお金がかからない遊びをします」って感じですよ。

安田

無理してまで頑張る理由がないと?

石塚

転勤で家族が離れるぐらいだったら、上に行こうとは思わない。自分の与えられた守備範囲をしっかり守って、まあまあ評価されるのであれば満足。

安田

ホントですか?

石塚

はい。むしろ「どうして、そんなことをしないといけないんですか?」って感じですね。

安田

それは中小、大手に関わらず?

石塚

はい。両方で増えてますね。

安田

でも、大手の社員さんって、評価の階段を順調に上ってきた人たちでしょ?

石塚

もちろん、上を目指す人はいるんですけど、だいぶ減ったってことですよ。

安田

「そこまで頑張らなくてもいいや」って人は、大企業まで行きつかない気がするんですけど。

石塚

大企業といっても、いろいろあるんですよ。上場企業だけでも、たくさんあるじゃないですか。ゆるい大企業だってあるわけですよ。

安田

じゃあ、上を目指さない人は、そういう大企業に行き着くと。

石塚

実例なんて、いくつも出てきます。

安田

たとえば?

石塚

たとえば、有名私大の看板学部出た息子さんが「お父さん、僕決めてきたよ。倉庫会社に決めてきたよ」って。

安田

倉庫会社?

石塚

お父さんは「え?」ってなるんですよ。「なんで倉庫会社なんだよ。何やるのかわかってるの?」って。

安田

まあ、そうなりますよね。

石塚

すると息子さんは「お父さんてさ、ずっと忙しかったでしょ。倉庫会社だと必ず定時で帰れるし、土日に出なくていいし、それがいいんだ」みたいな。

安田

そういう人が増えていると?

石塚

こういう話を、お父さんサイドからいっぱい聞きます。

安田

じゃあ「海外を飛び回りたい」とか「世界を動かしたい」とかは少ない?

石塚

すごく少ないです。英語喋れるし、留学経験あるのに「そういうのいいです」って。

安田
なんと!
石塚

ある娘さんは有名大学を出て、そういう会社に入ったんですが、1年で辞めました。

安田

それは、どんな理由で?

石塚

土日が仕事だったから。友達に会えない。

安田

それだけですか?

石塚

はい。今2つ挙げましたけど、両手足の指でも足りないぐらい(笑)いくらでも出てきます。

安田

仕事の充実なんかより、もっとゆるく生きていきたい、ということですか?

石塚

おっしゃる通り。全般的にスローダウンしているんですよ。

安田

そこに合わせていこうと思うと、企業はどんな制度をつくったらいいんですか?

石塚

一見難しそうなんですけど、経営視点から考えると「すごく良い時代」とも言えます。

安田

どこらへんが?

石塚

総額人件費がものすごく下がる。

安田

下がりますか?

石塚

だって、求めてないんですから。従業員満足度を上げつつ、総額人件費を下げていく。

安田

なるほど。それでも人は集まると?

石塚

集まると思います。ただし、会社を引っ張っていく次のイノベーターは必要だから、そこは確保しないといけない。

安田

何割ぐらい?

石塚

3%未満で良いと思います。

安田

そんなに少なくていいんですか?

石塚

十分です。通常は同期入社の100人に1人いればいいんですから。3%もいたら最高ですね。

安田

じゃあ残りの人は、賃金を抑えながら「ゆるく、持続可能な働き方」をしてもらう?

石塚

賃金をぐっと減らして、出来ればベーシックインカムも導入してもらって、70か75まで働いてもらう。これが正解のような気がします。

安田

全体の1%が、グローバル競争で勝つためにしのぎを削り、残り99%はゆるくマイペースに生きていくと。

石塚

そう思います。

安田

それは、究極の格差社会ってことじゃないでしょうか?

石塚

でも、当の本人は「年収700万ぐらいだけど、生活コストかからないし、残業規制で夜もぐっすり眠れるし、それのどこが悪いの?」って感じだと思いますよ。

安田

別段、欲しいものもないと?

石塚

ブランドものの時計も欲しくない、車も乗らなくていい、空き家を格安で買って「夫婦で3ヶ月かけてリノベーションしました」みたいな。

安田

600万、700万ぐらいなら、大手は払っていけるってことですか?

石塚

余裕ですよ。

安田

じゃあ、ゆるく生きたい人は「定時で帰って、家でゆっくり休んでいいよ」と。

石塚

仕事はしくみ化しているし、労働者の質としてはまずまずじゃないですか。

安田

意外と、真面目に働く、良い人がくるかもしれませんね。

石塚

ただし、「そもそも人を雇わなくなる」って可能性もありますよ。

安田

確かに。それは起こり得ますね。機械化ってことですよね。

石塚

無人にはならないでしょうけど、大企業から「劇的に従業員が減っていく」という可能性はあります。

安田

そうなったら、日本経済は壊滅するんでしょうか?

石塚

江戸時代に戻るかもしれませんね。

安田

江戸時代ですか?

石塚

最近、江戸東京博物館とか、入場者数が増えてるんですよ。

安田

そうなんですか?

石塚

「ちょっとした憧れ」みたいなものが、あるのかもしれません。

安田

江戸時代の町人みたいな、ゆるーい生活ってことですか?

石塚

そうです。実は江戸って、世界最先端のカルチャーだったのかもしれません。


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

感想・著者への質問はこちらから