第77回 行列の出口

このコンテンツについて
自覚して生きている人は少ないですが、人生には必ず終わりがやってきます。人生だけではありません。会社にも経営にも必ず終わりはやって来ます。でもそれは不幸なことではありません。不幸なのは終わりがないと信じていること。その結果、想定外の終わりがやって来て、予期せぬ不幸に襲われてしまうのです。どのような終わりを受け入れるのか。終わりに向き合っている人には青い出口が待っています。終わりに向き合えない人には赤い出口が待っています。人生も会社も経営も、終わりから逆算することが何よりも大切なのです。いろんな実例を踏まえながら、そのお話をさせていただきましょう。

普段は自宅PCで手続きをするのですが、
銀行に用事があったので、
ついでにATMで振込を5件ほどしました。

隣では身なりの良いおじいちゃんが
担当の方のサポートを受けながら、
どうやら、ATMで送金をしているようです。

おじい:「この口座は海外の通貨にも対応していてね」
担当:「はい、まずは金額を入力ください」

おじい:「普通の人は持てない口座なんですよ」
担当:「大丈夫ですよ。金額をご入力ください」

おじいさんには、
なにやら伝えたいことがあるようです。
意思疎通ができないまま、
ようやく次の画面に移ったようです。
ここまでで、私は2件の振込を終えていました。

おじい:「この名前を全部打ち込まないといけないの?」
担当:「口座の番号をご入力ください」

おじい:「口座名を打ち込むのに、文字数が足りないと思うんだけど」
担当:「入力するのは、口座番号でよろしいですよ」

おじい:「ほら、外国の人だから名前が長いんですよ。」
担当:「大丈夫です。口座番号で指定しますから」

おじい:「誰に送金するかを伝えなくちゃだめでしょ?」
担当:「後ほど確認できます。口座番号を入力してください」

おじい:「この仕組みつくった人は、大学とかでてないんだろうね。
僕なんかは大学院まででてますけどね。ふふ。」
担当:「口座番号を、入力してください」

おじいさんは、
海外の友人がいること、
特別口座を作れるほど信用があること、
大学院にいったくらい勉強ができたこと、
この振込ひとつにかけられた、
おじいさんの自慢の人生を放り込んできます。

案内の人も大変だなあと思いつつ、
物言わぬATMにドン・キホーテばりに、
反抗しているおじいさんが、
だんだん愛しくなってきました。

もう少し聞いてみたいなと思っていたら、
私の振込5件は終わってしまい、
愛しいおじいさんに後ろ髪を引かれながら、
ATMを後にすることにしました。

振り返ると、3台しかないATMは、
15人位の長い列となって続いていました。
並んでいる大多数の人がいらだっているであろう、
ATMの行列の出口は、
おじいちゃんの自慢話でした。

 

著者の他の記事を見る


- 著者自己紹介 -

人材会社、ソフトウェア会社、事業会社(トラック会社)と渡り歩き、営業、WEBマーケティング、商品開発と何でも屋さんとして働きました。独立後も、それぞれの会社の、新しい顧客を創り出す仕事をしています。
「自分が商売できないのに、人の商品が売れるはずがない。」と勝手に思い込んで、モロッコから美容オイルを商品化し販売しています。<https://aniajapan.com/>
売ったり買ったり、貸したり借りたり。所有者や利用者の「出口」と「入口」を繰り返して、商材を有効活用していく。そんな新規マーケットの創造をしていきたいと思っています。

出口にこだわるマーケター
松尾聡史

感想・著者への質問はこちらから