第82回 待ち人来たらず。待つ人おらず。

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自覚して生きている人は少ないですが、人生には必ず終わりがやってきます。人生だけではありません。会社にも経営にも必ず終わりはやって来ます。でもそれは不幸なことではありません。不幸なのは終わりがないと信じていること。その結果、想定外の終わりがやって来て、予期せぬ不幸に襲われてしまうのです。どのような終わりを受け入れるのか。終わりに向き合っている人には青い出口が待っています。終わりに向き合えない人には赤い出口が待っています。人生も会社も経営も、終わりから逆算することが何よりも大切なのです。いろんな実例を踏まえながら、そのお話をさせていただきましょう。

2001年9月11日。
私たちはアメリカはサンフランシスコにいました。
新卒で入社した会社は少しずつ業績が良くなり、
ご褒美として社員旅行を開催してくれたのでした。
そして帰国の前日、
例の同時多発テロ事件に遭遇してしまいます。

ほとんどの社員が参加していたため、
社長はじめ役員は、
鬼気迫る雰囲気で対応していたのを覚えています。
いつ帰国できるかもわからない。
このまま継続機能を失った会社は
潰れてしまう可能性もあったのです。
楽しい社員旅行は、会社にとって、
悲劇のイベントとなってしまうところでした。

一方、私の悲劇は、
飛ぶかどうかわからない飛行機を
空港で待つところで起こりました。

だれがどの飛行機でいつ帰れるかわかりません。
日本行きの飛行機が飛ぶと決まってから、
準備したところで間に合わないため、
会社としては帰国させたい順に
社員を一列に並べることになりました。

優先順位は、
1:経理の責任者
2:営業担当の役員
3:家族のいる社員・女性社員
4:営業の男性社員
5:社長・役員
の順番です。
80人くらいが一列に並びます。
そして、
4番目の営業の男性社員が呼ばれるところで、
あることに気づきます。
「あ、営業成績順に並んでる!」

営業会社でしたので、
売上が上がらないと入金がありません。
会社の存亡の危機には、
売れる営業がなにより必要なのです。

結果は、皆さんお察しの通り。
私の後ろには社長と役員しかいません。
楽しい社員旅行のはずが、
私には役立たずの通告となりました。
結局、次の日に全員で帰国しましたが、
使えないやつと広く周知されることになりました。
そして、
それをものともせず会社にしがみついた私が、
少しは使いモノになるまで、
その後2〜3年かかることになります。

周りの人も私も笑えない話ですが、
今では当時の会社
(社長はじめ関わってくれた方)
には感謝しています。
時代もあるとは思いますが、
会社に貢献できない社員を、
我慢して雇ってくれていたのですから。

人の成長は個々で違います。
私のように5〜6年間芽が出ない人もいます。
そんな人は
自分の置かれている状況を理解できないし、
自分の能力を推し量ることもできません。
そして、従来の会社組織は、
自分と他人と組織とを
客観的に見ることができるまで、
会社が待ってくれていました。今までは。

そして、このモラトリアムと言えるような
期間が今、無くなろうとしています。
企業にはスピードある組織運営が求められて、
数年後に当たるかもしれない宝くじを
楽しみに待つ余裕がなかなかありません。

企業がそれを放棄したとなれば、
若い人たちのアイデンティティの醸成を、
「待つ」機能は、
誰が担うことになるのでしょうか。

 

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- 著者自己紹介 -

人材会社、ソフトウェア会社、事業会社(トラック会社)と渡り歩き、営業、WEBマーケティング、商品開発と何でも屋さんとして働きました。独立後も、それぞれの会社の、新しい顧客を創り出す仕事をしています。
「自分が商売できないのに、人の商品が売れるはずがない。」と勝手に思い込んで、モロッコから美容オイルを商品化し販売しています。<https://aniajapan.com/>
売ったり買ったり、貸したり借りたり。所有者や利用者の「出口」と「入口」を繰り返して、商材を有効活用していく。そんな新規マーケットの創造をしていきたいと思っています。

出口にこだわるマーケター
松尾聡史

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