第2回 最初の起業は「引越し屋」のつもりが「夜逃げ屋」に…

この対談について

大阪・兵庫を中心に展開する、高価買取・激安販売がモットーの『電材買取センター』。​​創業者である株式会社フジデン代表・藤村泰宏さんの経営に対する想いや人生観に安田佳生が迫ります。

第2回 最初の起業は「引越し屋」のつもりが「夜逃げ屋」に…

安田

藤村さんが最初に起業をしたのは、おいくつのときでしたか?


藤村

結婚してすぐだったので、26歳の頃ですね。最初の事業として「引越し屋」を始めたつもりだったんですが…。

安田

…いつの間にやら「夜逃げ屋」のような仕事ばかりになっていたんですよね?(笑)。以前食事をしながらお聞きした話ですが、読者さんにもぜひ聞かせてあげてください。そもそもは、普通の引越屋さんとして始まったんでしょう?


藤村

ええ、そうなんですけど…。でも、考えてみてください。ご自身が引っ越しをするとしたら、「聞いたこともないような業者」に頼みます?

安田

いや、絶対大手業者に連絡すると思います(笑)。


藤村

ですよね(笑)。だからウチも、タウンページにはちゃんと情報を載せていたんですけど、普通の依頼は全然来ないわけですよ。…ところがなぜか、そんなウチに依頼してくる人がいるんです。

安田

ほう……それはどんな?


藤村

ズバリ、「人知れずこっそりと穏便に引越しをしたい」と考える人たちです。なんらかの事情を抱えた人にとっては、僕のところみたいな「無名会社」は逆に都合がいいんですね。

安田

そうか、大手業者の社名の入ったトラックで来られちゃったら、引越しするのがすぐバレちゃいますもんね(笑)。


藤村

そうそう(笑)。だからウチみたいな無名のところに頼むんです。結果、いつの間にかそういう案件が増えていって、気付けば「ワケあり案件」専門の引越し業者、即ち「夜逃げ屋」みたいになってしまって(笑)。

安田

なるほどなるほど(笑)。ところで夜逃げってどんな感じでするんですか? よくテレビで観るような「あっという間に荷物を運び出して、誰にも気づかれずにサッと去る」という感じ?


藤村

いや、そんな状況はまずないですね。というか、夜逃げする人って意外と近所の人にはバレているもんなんですよ。玄関に「金返せ」とか張り紙がつけられちゃう時代ですから。

安田

ああ〜、そこはテレビで観るのと同じだ(笑)。じゃあ近所の方は「この家の人、そろそろ夜逃げするな…」って気づいているわけですね。


藤村

そのとおりです(笑)。で、実際に夜逃げする時は、社名が入っていない普通のトラックで客先に行き、だいたい夜12時から荷物の搬出をスタートします。

安田

夜中12時から(笑)。もうその時点で、普通の引越し屋ではないことがバレバレですね。あるいは、バレないような運び方をするとか?


藤村

まさに仰るとおりで、音をたててはいけないので、ガチャガチャうるさい台車なんかは使えないわけです。気付かれたくないということだけじゃなく、単純にその時間だと近所迷惑になってしまうので。

安田

ははぁ、なるほど。ということは、全部手持ちですか?


藤村

そうです。ダンボール2〜3箱を抱えて部屋とトラックをせっせと何往復もします。で、そうしていると、近所の方たちが窓やドアの隙間からそーっと覗き始めたりして(笑)。

安田

「あ、あの人、ついに逃げるんだな」って?(笑)


藤村

そうそう(笑)。で、そうこうするうちに、今度はどこからともなく金融屋さんがやってくるわけです。「おい、この荷物どこに持って行くんや?」って。

安田

おお……そうか、彼らにとっては、そのまま逃がすわけにはいかないですもんね。


藤村

ええ。だから当然「ワレ、新しい住所吐かんかい」となる。で、そういうのはもちろん僕が対応するんですが、時代も時代ですから、なかなか大変なんですよ。胸ぐらを掴まれたりするのは序の口で、階段の踊り場から蹴落とされたりとか(笑)。

安田

本当ですか?! それはヘビーすぎる…。


藤村

一番おっかなかったのは、「命が惜しいんやったら、次の住所を教えろ」って、背中に何かをゴリッと当てられたときですね。あれ多分、拳銃の銃口だと思うんですけど。

安田

ひえぇぇ…。そんなことがこの日本で起こるなんて…。ちなみにそういう場面はどう切り抜けていたんですか?


藤村

ふふふ……そこが「夜逃げ屋」の腕の見せ所で。たとえば、あらかじめニセの引越し先を書いた「嘘の伝票」を仕込んどくんですよ。何気ない顔でそれを渡して「荷物はここに運びます」って言うと、「そうかそうか」とすんなりお帰りいただけて。

安田

へぇ〜。でも、そんな嘘がプロの金融屋さんに通用するんですか(笑)。


藤村

意外と通じましたね(笑)。とはいえ、向こうも次の日には気付くんでしょうね。間もなく事務所に電話がかかってくるんです。「どこどこ警察の者ですが、○○さんはどちらに引越されましたか?」なんて。

安田

ほぉ〜、今度は警察のフリをして接触してくるわけですね。


藤村

そうなんですよ。でも、「警察の方なんやったら事務所までいらしてください。そしたら正しい住所を伝えさせていただきますんで」って言うと、ほとんどはそれっきりになりましたね(笑)。

安田

ははぁ…。なんというか藤村さん、ものすごく腹が据わっていますね(笑)。でも、「夜逃げをするような人」ばかりがお客さんだと、代金を踏み倒されることも少なくなかったんじゃないですか?


藤村

いや、これが不思議と払ってくれるんです(笑)。意外かもしれませんが、夜逃げをする人の大半は「お金が一銭もないから逃げる」というわけではないんです。考えてみれば不思議でしょう? 一銭も持っていない人が、なんであんなにたくさんの荷物を持っているのか。

安田

ああ〜、確かにそうか。本当にお金がないなら、「風呂敷1つ、着の身着のままで逃げる」という感じになりますもんね(笑)。


藤村

そうそう! でも実際は、1tトラック何台も使って夜逃げする方が多い(笑)。

安田

なるほど、おもしろいなぁ(笑)。「夜逃げしなきゃいけないなんてかわいそう」なんて思う必要もなさそうだ(笑)。で、結局「ワケあり引っ越し業」はどれくらい続けられたんですか?


藤村

1年半やったところで、僕だけ抜けましたね。

安田

ん? 藤村さんが社長なのに抜けたんですか?


藤村

ええ。もともと友人2人と3人で起業した会社だったんですよ。で、他の2人はまだ続けたいと言っていたので、僕だけ辞めさせてもらって。

安田

なるほど。つまり藤村さん自身は「夜逃げ屋」を続けたくはなかったんですね。


藤村

ええ。こんな物騒な仕事を続けていたら、僕の人生には何も残らなくなってしまうって思って。仮に大成功できるとしても、グレーな仕事で成功してもうれしくないなと。

安田

なるほどなぁ。ちなみにその後「夜逃げ屋」、もといその引越し屋さんはどうなったんですか?


藤村

僕が辞めてから約1年後に破綻したと聞きました。理由は詳しくはわかりませんが、アルバイトや社員が全然定着しないから仕事がまわらなくなったんじゃないでしょうかね。

安田

ああ、普通の引越し屋さんだと思って入社したのに、作業のスタート時間は真夜中だし、しょっちゅう怖い人がやってくるし…。そんな状況ではスタッフなんて定着しませんよ(笑)。

 


対談している二人

藤村 泰宏(ふじむら やすひろ)
株式会社フジデンホールディングス 代表取締役

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1966(昭和41)年、東京都生まれ。高校卒業後、友禅職人で経験を積み、1993(平成5)年に京都府八幡市にて「藤村電機設備」を個人創業。1999(平成11)年に株式会社へ組織変更し、社名も「株式会社フジデン」に変更。代表取締役に就任し、現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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