第14回 経営トップと経営幹部の報酬差について

この対談について

人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。

第14回 経営トップと経営幹部の報酬差について

安田

以前、藤原さんは「従業員の定着率や満足度のためには、経営トップと経営幹部の報酬差を極力少なくすることが大事だ」と仰っていましたよね。


藤原

ああ、はい。そうですね。

安田

これ、ちょっとよくわからないんです。「経営トップと社員の報酬差」ならまだわかるんですが、なぜ「経営トップと経営幹部の報酬差」なんですか? ヒラ社員からしたら、社長も幹部も遠い存在な気がするんですが。


藤原

端的に言えば、社員にとって経営幹部というのは「この会社で成長した未来の自分の姿」だからです。

安田

ああ、なるほど。確かに、どれだけうまくいっても自分が会社のオーナー(社長)になることはないですもんね。順調に成長して実績を出し、どんどん出世していった最終地点が経営幹部だと。


藤原

ええ。そんな自分の未来像が全然夢のない待遇で働いていたら、モチベーションなんて上がりませんから。

安田

「そこまでいってもそんな額しかもらえないんだ」と、ガッカリしてしまうってことですね。「社長はあんなに良いスーツ着てるのに、幹部は自分と大して変わらない安スーツじゃないか」と(笑)。


藤原

そうなんです。でも、現実的にはそういう会社はすごく多いと思いますよ。何度もトップが変わっている大企業や老舗企業ならまだしも、それほど歴史の深くない中小企業のほとんどは、オーナー社長のワンマン経営です。

安田

要するにトップの権力だけが非常に強くて、ナンバー2以下にはほとんど決裁権がない。役員という肩書きはあっても、実際の権力は部長や課長レベルしかないと。


藤原

そういうことです。決裁権は基本的に報酬と比例しますから、つまりそういう会社の場合、「社長と幹部の報酬差」は自然と開いていく。でもそれでは従業員のモチベーションは上がりませんよ、というのが私の主張です。

安田

なるほどなぁ。でも、最近の風潮として、割と権限委譲が進んでいる印象もあるんです。社長は社長業に専念して、実務はどんどん現場に任せていくような。


藤原

ああ、確かにそういう面もあります。そうやって権限を任せて、そのぶんしっかり報酬も上げていれば何の問題もありません。が、実際に聞こえてくるのは「責任ばかり負わされて、お金は全然もらえない」という話です。

安田

ああ……つまり権限はどんどん与えられるけど、報酬が全然リンクしていない。それじゃ確かに納得いきませんね。だったら権限なんていらない、となりそうです。


藤原

そういうことです。つまり権限と報酬はセットで上げていく必要があるということですね。

安田

うーん、確かにそれもその通りだと思うんですが、そもそも社長と幹部って負っている「リスク」が違うじゃないですか。そもそも社長がお金を出して会社を設立しているわけで。


藤原

仰る意味はわかります。実際社長って、業績が悪ければ自分で借金してでもお金を作らないといけない。一方の幹部たちは、多少報酬は下がるかもしれないけど、マイナスになることはないわけで。

安田

そうそう。だからこそ、私はある意味「社長一人がうまい汁を吸う」のも当然な気もするんです。それだけリスクを負っているんだから。


藤原

社長の観点で考えれば、そう思うのも無理はありません。私自身も、社長自身がそう考えること自体を否定しているんではないんです。ただ端的に、「それでは従業員満足度は上がりませんよ」と言っているだけで。

安田

ははぁ、そうか、藤原さんの専門である従業員満足の観点から考えると、答えが変わってくるということですね。


藤原

そういうことです。

安田

でも、かといって「自分と同等の報酬を幹部に払える社長」って、現実にはなかなかいない気がしますけどね。


藤原

まぁそうでしょうね。でもね、さらに過激なことを言うようですが、私はむしろ「社長は自分の報酬を多少減らしてでも従業員の報酬を上げるべきだ」と思いますよ。

安田

えっ、それはさすがに……


藤原

笑。もちろんこれは「会社が儲かっているなら」という前提の話ですけどね。会社のビジネスがうまくいっているのなら、個人の頑張りや貢献度に関係なく、しっかり利益を分配するほうがいいと思っていて。

安田

ちょっと待ってください。個人の頑張りや貢献度に関係なく? 考えについていけません……(笑)


藤原

そうかもしれませんね(笑)。でもね、私は世の中に「会社が儲かっているのに、あれこれ理由をつけてお金を下に配らない社長」が多すぎると思っているんです。「頑張りが見えない」とか「貢献度が足りない」とか言って。

安田

ああ、確かにそれはそうかもしれません。


藤原

ですよね。でも、「従業員のモチベーションを下げない」「もっとよりよい会社にしていきたい」と思うなら、会社で得た利益は従業員に分配した方がいい。それで社長の報酬が減ったとしても、会社という単位で見ればきっとその方が売上は伸びていくでしょう。

安田

ああ、なんとなくわかってきました。そして従業員の中でも、社員たちの未来の姿である幹部たちにこそたくさん報酬を与える。そうすれば会社全体のモチベーションや満足度が上がっていく。


藤原

そういうことです。優秀な社員、つまり将来の幹部候補たちほど、そういう待遇をよく見てます。彼らをモチベートしてワクワクさせ続けていくことが大事なんです。

安田

ははぁ、なるほどなぁ。確かに仰る通りな気がしてきました。……で、実際、社長と幹部の報酬差はどれくらいにすればいいんですかね?


藤原

あくまでもイメージですけど、例えば社長が1000万の高級車に乗ってるとしたら、経営幹部は700、800万の車に乗ってる感じですかね(笑)。これくらいなら「社長と経営幹部の差がない」と言っていいと思います。

 


対談している二人

藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表

Twitter

1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

Twitter  Facebook

1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

感想・著者への質問はこちらから