第26回 経営者とスペシャリストの集中力の違い

この対談について

人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。

第26回 経営者とスペシャリストの集中力の違い

安田

藤原さんのメルマガの中に、「集中力を解除する能力」についての話がありましたね。ということで、今日は「集中力」について話していきたいなと。


藤原

いいですね。ぜひぜひ。

安田

集中力ってオンオフだけじゃなく、高低もありますよね。40~50%の集中力では「こなす仕事」はできても、大きな成果は生みだせない。「新たな価値を創造する」とか「90点からあと3点上げるための時間」みたいなフェーズでは、80〜90%の集中力が必要になる。


藤原

仰るとおりですね。

安田

そして高低だけじゃなく、種類も複数ある。つまり「商品開発しているときの集中力」と「お客さんにプレゼンするときの集中力」って全然違ったりしますから。


藤原

ああ、確かに違いますね。そして種類が違う集中力を同時に発揮するのはなかなか難しい。

安田

まさに仰るとおりで、Aという集中力を使っている状態で、Bの仕事はできない。つまり「商品開発」に集中しているときに、お客さんにプレゼンしようと思ったら、1回「商品開発」のスイッチを切らないといけない。それはまさに藤原さんのメルマガにあった「集中力を解除する」って話だよなと。


藤原

まさにそういうことです。わかりやすく説明してくださってありがとうございます(笑)。

安田

いえいえ、私もメルマガを読んでいて「確かにそうだ!」と膝を打ったので。「一つのことに集中するとは、他のことに集中しないことである」と書かれていて、ものすごく共感しました。


藤原

ありがとうございます。ただね、ちょっと矛盾するようですが、「ノイズ」も大事なんですよ。一つのことに集中すればするほど、集中度が増していって、ノイズを受け取れなくなる。逆に言えば「ノイズが排除された状態」を「集中」というわけですけど、実際のところ「ノイズから生まれるもの」もある。

安田

ほう、なるほど。ということは、あえてノイズを入れることも意識した方がいいと。


藤原

そうそう。とはいえ、常にノイズだらけ=集中できていない状態じゃ仕事が進みませんから(笑)。つまりノイズを入れるために時々「集中力を解除」するわけです。プレゼン資料を作ったり、商品開発をしているようなすごく集中しているときに、一時的にふっと集中を解除するんです。

安田

ははぁ、なるほど。集中のスイッチを切り替えるというより、一定時間「オフ」にするような感じですね。


藤原

どちらもアリですよね。オフにしてぼーっとしてみるのもいいし、本を読んだり、散歩に出たりと、何か違うことをやってみるのもいい。そうやって意図的にノイズを入れることで、いいアイデアがパッとひらめいたりするんですよね。

安田

わかる気がします。でも、そうやってアイデアをひらめくってことは、元の集中も「完全には」切っていないってことなんですかね。


藤原

ああ、確かに。元々集中していたことに対するアンテナは張った状態なのかもしれませんね。なんというか、集中力の残骸みたいなものがあるというか(笑)。

安田

ああ、それすごくわかります(笑)。それがあるから、何かの看板を見たり、ふとした時にアイディアが降りてくる。


藤原

ええ、まさに。あるいは、手を止めて本を読んでいて、元の作業に戻ったらいきなりスラスラ進んだりすることもありますね。自覚症状はないけど、本を読みながらもどこかで意識はしている状態だったというか。

安田

ははぁ、確かにそういうことありますよね。…でも逆に、集中力を解除して、そのまま元の状態に戻れないこともありませんか? 私はそれが怖いので、基本的に集中するときは余計なことを一切入れないようにしてるんです。


藤原

わかります。実際、ノイズを排除することでスピードも精度も上がりますからね。というか、本当に集中しているときって「あ、そろそろ解除しなきゃ」なんて思う隙もないんですよね(笑)。

安田

ああ、そうか、そうとも考えられるわけですね。それにしても、藤原さんほどの人なら、集中力の解除や切り替えなんてお手の物なんだろうなぁと思っていたんですけど、そうでもないですか。


藤原

そこまでの能力はありません(笑)。そもそもこの「集中力の解除」という考え方を始めたのも、「どうしたらもっと深く集中できるようになるだろう…」と試行錯誤した結果で。いろいろ実験する中で、バイクを少し走らせたり、靴磨きをしたり、庭の草むしりをしたり…という気分転換をはさむことで、さらに集中できるのを発見したんですね。

安田

なるほどなぁ。つまり藤原さんは普段から、集中したいときにもあまり邪魔を排除しないわけですか。つまり「ノイズを入れる」ために。


藤原

うーん、外部刺激を一切遮断するということはないですね。というのも、自社のスタッフと同じスペースで仕事をしていることが多いので、物理的に遮断することができない(笑)。実際、いつでも声を掛けてもらえるようにしています。

安田

なるほど〜。あ、でもそれって、要するに「経営に集中している」ということなんじゃないですか? 経営者として、マルチタスク的にいろんな情報やアイディアをキャッチできる状態にいるわけで。


藤原

そうですね! 仰るとおりかもしれません。一方で、「経営に集中する=一つのことに集中しないこと」でもありますよね。なんだか言葉遊びっぽくなってきましたが(笑)。

安田

笑。確かに一つのことに集中すると、他のことが見えなくなったり聞こえなくなったりしますもんね。今思えば私も会社に行ってた頃はそうしてましたね。


藤原

そうですよね。きっとそうだと思います。

安田

経営以外の仕事だとまた変わってきますよね。私が今やっている「ものづくり」や「価値づくり」の仕事だと、少なくとも90%くらいは集中してないと、ありふれたアイディアばかりになってしまう。つまり藤原さんのような状態に自分を置いておけないんです。


藤原

確かにそういった仕事は、1%2%集中力を上げるだけで、価値が10倍になる可能性もありますからね。そう考えると、経営者とスペシャリストの集中力は違うのかもしれません。

安田

確かに。それでいくと私はもう経営者というよりはスペシャリストの方になりつつあるというか。


藤原

ああ、そうですね。安田さんは境目研究家としての活動も長いですし、スペシャリストの方に脳が進化してきたんでしょうね。

 


対談している二人

藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表

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1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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