第64回 会社の都合と、社員の本音

この対談について

人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。

第64回 会社の都合と、社員の本音

安田

今日は「社員の本音」という視点でお話を伺っていきたいんです。たとえばある日突然「辞めます」と社員さんが言ってきたら、「そんな気持ちになる前に相談してくれればよかったのに」って経営者は思うじゃないですか。


藤原

そうでしょうね。「昨日まで普通に仲良く喋ってたじゃないか」みたいな(笑)。

安田

そうそう(笑)。つまりその社員は「本音を隠して」勤務していたってことです。ちなみに藤原さんがそれを言われた経営者さんだったとしたら、どんな対応をします?


藤原

そうですね。まずはとにかく話をしますね。辞めるという決意は変わらないにしても、なぜ辞めたいと考えたのか、自分のどこに問題があったのかは理解したいので。

安田

なるほど。とはいえ、藤原さんの場合、そうならないように普段から密にコミュニケーションを取っているんでしょうね。つまり社員が本音を隠して勤務しなきゃいけない状況にはしていないというか。


藤原

そうできるよう努力していますね。ただ人間の感情や状況は日々変化するので、「毎日挨拶さえしていれば問題ない」みたいな単純な話ではないんですけど。

安田

本当にそうですね。「うちは社員との信頼関係がバッチリだ」と信じて疑わない社長もいたりするじゃないですか。でも社長がいないところで社員さんに話を聞くと、実際は不満タラタラだったりする。


藤原

典型的なパターンですよね。社長が短気だったりすると、社員はだんだん社長の顔色を伺いながら仕事をするようになる。機嫌を損ねたくないから、どんなことにも笑顔で「ハイ!」と答えるわけですよ。すると社長は「皆やりがいを持って楽しく働いてくれているなぁ」と勘違いしてしまう。

安田

う〜む、なるほど。つまり社長からは社員の本音が見えない構造になってしまっている。これ、どうやったら社長は気付けるんでしょうね。藤原さんならどうします?


藤原

これも「鶏が先か卵が先か」みたいな話になっちゃうんですけど、そういう状況にならないように普段から意識をするのが重要で。一時「心理的安全性」みたいな言葉が流行りましたけど、「本音を言っても大丈夫」という雰囲気をどう作れるかだと思いますね。

安田

ふ〜む、なるほど。でもそういう雰囲気ってどうやって作るんですか? 何を意識して過ごせばいいか、知りたい経営者さんも多いと思うんですけど。


藤原

前提として意識してもらいたいのが、「社員の立場で考える」ってことですよね。とかく経営者は「会社にとってどういう社員であって欲しいか」で考えてしまいますが、その視点を「この社員さんはどうありたいのか」に変えるというか。

安田

ははぁ、なるほど。とはいえ、社員の理想を全部聞き入れていたら、会社はやっていけないじゃないですか。


藤原

もちろんそうです。ですから最終的には「会社のビジョン」と「社員の気持ち」の折り合いをどうつけるか、という話になるわけですが、それをするにも「社員の気持ち」は分かっていないといけないわけで。

安田

確かに確かに。会社からの一方的な押しつけではいけないと。


藤原

そういうことです。例えばね、「ウチは個人面談もしっかりやっている。だから大丈夫だ!」という社長さんもいるかもしれませんが、その面談で会社の思惑を押し付けていませんか? ということなんです。社員さんの本音をちゃんと聞けてますか? っていう。

安田

ああ〜、耳の痛い社長さん、いるんじゃないですかね(笑)。


藤原

そうかもしれませんね(笑)。ただ、繰り返しになりますが、彼らの要望をそのまま取り入れましょうって話ではないんですよ。あくまで「社員の考えていることをしっかり把握しておこう」ということでしかなくて。

安田

そうですよね。どうしたって会社の風土と合わない社員は出てくるだろうし、そもそも人間って日々変わるものですからね。どんなに人間関係がよかったとしても、急に辞めたくなることだってある。


藤原

そうそう。そういう意味では「1人も辞めさせない」みたいに縛る必要もないと思いますね。それは単なる結果でしかなくて、先ほど言ったように、社員が本音で働ける環境をいかに作っておくか、の方がずっと重要です。

安田

なるほどなぁ。例えば「これだけの成果を上げると管理職になれて収入も増えるよ」みたいなキャリアステップを作っても、すべての社員がそれを望むわけじゃないですもんね。


藤原

ええ。明確なキャリアパスがあることで頑張れる人もいれば、レールのない道を自分で切り拓きたいという人もいます。大事なのは「この会社で働いている自分をどう感じているのか」を聞ける場を作っておくことだと思います。

安田

なるほど。それが結果的に退職率を下げることにもつながり、たとえ辞めることになっても、お互いに納得できる形で送り出せると。


藤原

ええ。退職を否定するのではなく、きちんと話し合える関係性こそが、会社にとっても社員にとって最も健全な形なんだと思いますね。


対談している二人

藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表

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1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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