その9「オールバックかシチサンか」

わたくしは子どものころ
しょうもない疑問をやたらに抱えておりましたが、
そのうちのひとつがオッサンの髪型に関することです。

「なぜオッサンたちは前髪を上げているのか?」

現代の子どもだと、小学生なのに現在の自分より
はるかにオシャレな髪型を決めている子もおりますが、
当時の地元の男子小学生業界はみんなテキトーに親に切られるか、
あるいは坊主だったりしました。
前髪を上げている子なんていやしません。

しかしオッサンたちはこぞって同じように、
結構匂いのきつい整髪料でがばっと前髪を上げているのです。

そしてさらに観察してみると
オッサンたちは二大派閥に分けられることを発見しました。
「オールバック派」と
「シチサン派」です。

細かくはたとえばシチサン派でも
「真ん中わけ」とか「8:2」とか「バーコード流」とか
多岐にわたるのですが、おおまかに二派に分けられたのです。

やがて自分が中学生くらいになると
ご多分に漏れず鏡の前で延々髪の毛をいじくりまわすわけですが、
流行りの髪型などはそもそも知識として持っておらず、
あこがれたのはマンガのキャラやロックの人の、
髪が全部真上を向いてツンツンに尖っている
エクストリームな髪型でした。

それをある休日にこっそり自宅で再現しようとするのですが、
どんなに大量の整髪料を投下してみてもうまくいきません。
あまり現実的ではないのかな、
とうすうす気づきはじめたところで
第二候補に変更することにしました。
オッサンたちがしているような、バチッとしたオールバックです。
だがそれすらも、数分経つと髪の毛が前にぐったりと崩れてきます。

なぜそこらでいくらでも見かけるオールバックがうまくいかないのか。

謎が解けたのは
それから20年ほど経ってからのことでした。
ある日、なにげなく鏡で自分の側頭部のあたりをアップで見たところ、
毛が根元からぜんぶ前に向いていることに気づいたのです。

そりゃあ、前を向いて生えているものを
真後ろにもっていこうとして、はいそうですかとはなりません。
強制的に固めるにしても、できるのは横に向けて分けること、
すなわちシチサンに落ち着けることまでです。

その程度のこと早めに気づけよ…と思うのですが、
とにかく自分は生まれながらのシチサン派であり、
ついぞオールバック派にはなりえないさだめだったのです。

いってみればこれは、
「オールバック派」と「シチサン派」が
モンタギュー家とキャピュレット家のように
決して相容れぬものと思えば、
なかなかに運命的ではありませんか。

…あと、耳あかの「カサカサ派」と「ベトベト派」とか。

著者自己紹介

「ぐぐっても名前が出てこない人」、略してGGです。フツーのサラリーマン。キャリアもフツー。

リーマン20年のキャリアを3ヶ月分に集約し、フツーだけど濃度はまあまあすごいエッセンスをご提供するカリキュラム、「グッドゴーイング」を制作中です。

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