以前、自分の勤務先に入っていた外部のお医者さん(産業医)に
「え、それ社員さんがやってるんですか?」
と言われて、若干恥ずかしい気持ちになったことがあります。
それは会議室などの清掃です。
社内の清掃自体は委託先があり、専門の人がデイリーで、
どんなにキレイであっても毎日同じように行ってくれているのですが、
会議室などはその対象でなく、社員がグループごとに持ち回りで担当しているのです。
会社の業種業態によるとは思いますが、
わたくしのいる製造業の中小企業というのは多少の差はあれ、
ひと言でいって「旦那様の会社」であると、これは断言いたします。
社長や会長という「旦那様」と、それ以外の人間がおり、
それ以外の人間はすべて、旦那様の意思を実現するために活動しています。
株式会社というのはそういうものだし、特に中小ならどこだってそうだよ、
と諭されそうですが、たとえるならば
「他の人はモノクロで、社長だけがカラーで存在している」
のが、わたくしが申し上げる中小企業的な世界観です。
こういうと、社長がワンマンばかりと決めつけているようですが、
そんなことはなく、むしろ社長たる者、一般社員よりも世の中の空気を
キャッチアップしており、社員のポテンシャルを引き出すために
日々工夫をこらされている方も沢山おられるものと推察いたします。
わたくしが今いる会社の社長も(年齢のわりに)先進的な方ですが、
わたくしたち社員がモノクロの存在で、彼だけがカラーの世界にいることに
変わりはありません。
経験則ですので、古典的な業種であれば、という条件がつきますが、
会社がどんな体質、特徴をもっているにせよ、
中小企業の活動とは、社長の一人称視点で語られる物語なのです。
特に、製造業に関していえば、「2S」「5S」など、
効率化と倫理観が融合した思想が普段の活動の下敷きにされています。
「5S」のひとつ、「決められたルールを実行できるように習慣づけること」は、
そこに「躾」という言葉を充てています。
教育や訓練の趣旨で使っているにせよ、
「躾」という単語に「オトナがコドモにルールのカタをはめる」という
意味がある以上、対等な人権をもつ人間で集まった(ことになっている)
一般社会でもっとも適当な言葉とは思えませんが、これで問題なく使用されている、
それが中小製造業の精神的な実態なのです。
産業医の先生に指摘されて恥ずかしい気持ちになったこと、
それは小学生のように掃除当番を割りふられていることに対してではなく、
キレイなオフィスで現代的に働いているような体でいて、
前時代的な本質をちらりと外部の方に見られてしまったことへの
わたくしの勝手な、ちいさな見栄によるものなのです。