その46  煽らざる者戦うべからず

ひと昔前、あるボクシング選手が活躍していました。

わたくしは彼の芸術的な戦いぶりのファンだったのですが、
家族と会話をしているとき、
ボクシングが手でやるのか足でやるのかも知らなさそうなわたくしの母が
ふとした際に彼の名前を出したので、驚きました。

それを尋ねると、
「この人ねえ、お母さんが重いご病気なのよねえ…」
と答えました。

試合前の煽り映像(試合を盛り上げるための事前VTR)でよくある、
負けられない理由がある…的な説明の中で
親御さんの病気が語られたのを
どこかで見て、覚えていたようでした。

煽り映像と似たような目的で、
トラッシュトークという行動があります。

格闘技などで、やはり試合前に「煽る」ため、
選手本人が対戦相手へ過剰に攻撃的なトークを浴びせる行為です。

海外では、ボクシングでも総合格闘技でも
試合前会見で悪口を言い合い、
「フェイス・オフ」と呼ばれる
並んでファイティングポーズを取る恒例の写真撮影時では
胸を突き飛ばすくらいの小競り合いがあることは
珍しくありません。

日本ではそういった行為は下品でスポーツマンシップにもとるというのが
従来平均的な感覚だったでしょうが、
それが本当に望まれなかったかというとそうでもなく、
世間に明確に悪役とされた選手が打ち負かされた試合は
過去何度も爆発的に盛り上がりました。

最近、そのジャンルでもっとも人気なのはネットのとあるリアリティ番組です。
登場人物は格闘技についてはほぼ全員素人であるかわり、
「煽り」に特化したストーリー作りとキャラ立てに注力した企画が大成功しました。

格闘技であれば本来コンテンツのコアであるはずの試合の内容は
事故の危険性が先に立つレベルですが、
現在はプロの側が選手も関係者もなんとかその企画に関われないかと
躍起になっています。

そこでは何年努力を重ねて、試合で実績を上げてきたかではなく、
どれだけおもしろいことをしでかしそうな奴であるかが問われているのです。

スポーツというより、エンターテイメントであり、
ヒストリーには興味なく、ストーリーでなければ見向きもされない。

今日は
本業での結果を出すことが美しく正解であるという「物語」の時代は終了し、
誰にでもおいしく食べやすく、けれどオマケ扱いされていた、
キャラと因縁の「物語」の時代になったのです。

 

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著者自己紹介

「ぐぐっても名前が出てこない人」、略してGGです。フツーのサラリーマン。キャリアもフツー。

リーマン20年のキャリアを3ヶ月分に集約し、フツーだけど濃度はまあまあすごいエッセンスをご提供するカリキュラム、「グッドゴーイング」を制作中です。

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