日曜日には、ネーミングを掘る ♯64 ホテルマネージャーA氏

今週は!

昨年來、
とあるホテルチェーンの
リ・ブランディングを
お手伝いすることになり、
全国各地を訪れる機会も
多くなっていますが、
今週末、私が滞在しているのは
北海道の小樽です。

取材先のホテルでは、
担当者の方にホテル内を
案内していただきながら、
いろいろと質問を投げかけて、
ホテルの魅力を掘り出していきます。

今回、案内していただいた
担当マネージャーのAさんは
じつにホテル愛に溢れた方で、
こちらの質問に対して
立て板に水の如く
答えてくれるのでありました。

こちらのホテル名はどこから?

はい。当ホテルの由来でございますね。それがですね。二説ございまして、ひとつは当ホテルのオーナーだった方が、若かりし頃に好きだった小説に登場する女性の名前という説。もうひとつは、所有されていたヨットの名前だったという説。わたくしも諸先輩方より聞いておるだけでなんとも覚束ないお答えになってしまって恐縮至極なのですが、どうやら前者の説が有力のようでございますね。

こちらのアート、いいですね!

はい、はい。よくお気づきで。こちらも、前オーナー所縁ものです。オーナーは大変な旅好きだったようでありまして、よく海外にも出かけていたのでありますが、その際に収集したテニス、ゴルフ、釣りなど古き良き英国時代の小物を、アーティストに依頼してオブジェにしたものです。以前はロビーに飾っておりましたのを、リニューアル後エレベーターホールに移して大切にしております。

などニコニコしながら
とても楽しそうに話してくれます。
きっとこの職場が好きで、
仕事も好きなのだろうなという気持ちが、
聞いているこちらにも伝わってきます。
そして、そのことによって
無色透明だったホテルの印象に、
どんどん色彩と陰影が加わり、
いつの間にか、
私はこのホテルのことが
すっかり好きになっているのでした。

あたりまえのことでありますが
(それ故に多くの人は
見過ごしてしまうのですが)、
私たちの目の前にあるすべてのものは、
突然そこに出現したわけではなく、
それぞれ固有の物語を持って、
そこに存在しています。

こうした物語を知っているかどうか、
知りたいと思う好奇心を
持っているかどうかによって、
人生の豊かさはずいぶんと
変わっていくように思います。
逆にいえば、
人生の豊かさというものは、
モノではなく物語を所有することに
よって左右されるとも言えます。

当ホテルのお部屋には、これまた前オーナーが買い集めたアンティークの家具と照明を置いておるのでございますが、なにぶん古いものでございますので、あちこちら塗装が剥げておるところなどもございます。新しいものに代えることもできるのですが、海外のお客さまからは「落ち着きのある良いお部屋」とお褒めのいただくことが多ございますね。日本人の方でございますか?そうでございますね。どちらかと言えば、なぜこんな古臭いものを置いておくのだとお叱りいただくことが多いように思いますね。はい、はい、はい。

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