今週は!
先月、6年ぶりにロンドンを訪れました。とくに予定のない5日間だったので、ギャラリーのある界隈を中心にゆっくりと街を散策できました。ロンドンの街を歩いていて気がついたのは、「大きな樹が多いなぁ」ということでした。
ロンドンはもともと公園の多い街ですが、園内だけでなく通りや広場など、いたるところに樹齢100年はくだらないだろうなという堂々とした大樹が目につきます。宿泊先のアパートメントホテルの庭にも、幹にヤドリギを抱いた大きな樹が何本も生えていて、根元に置かれたベンチともども旅人を読書やら昼寝やらに誘うのでありました。
木と書くより、樹と書きたくなる、そんな樹々たち。そこには(我々日本人がどれだけ背伸びをしても届きそうもない)豊かさのようなものがあって、改めてロンドンという街を好きになったわけですが。
ひるがえって、我が暮らす街、鎌倉。相も変わらず、歴史ある邸宅がどんどん壊され、庭にある立派な樹々たちも情け容赦なく切り倒されていきます。つい最近も、わが家のそばのお屋敷に悠々と枝葉を靡かせていた大きな柳の木が倒死しました。
あとに残るは、ぺったり区画割された更地と聞いたこともないディベロッパーの名が書かれた建設業の許可票。来年の春頃までには、味も素っ気もない住宅が並ぶことでしょう。世代交代を迎えている鎌倉の街、相続税の問題などもあり仕方なしやなと思う反面、どうにもやるせない気持ちになってしまうのです。
日本画壇の巨匠竹内栖鳳の私邸「東山艸堂」(ひがしやまそうどう)の敷地内に建つ『SODO』、奈良の『菊水楼』、神戸の『オリエンタルホテル』など、歴史や伝統ある建物を生かして国内外に独自のスタイルを持ったホテル・レストランを展開している株式会社Plan・Do・Seeの創業者、野田豊加さん。以前、仕事でお話を伺ったときに仰っていたことを思い出します。
「植栽は、建物や施設を選択する際の決め手のひとつです。もし庭に大きな樹があったら、それを切ることは絶対にしません。その樹は、時間がくれた贈り物であり、土地や建物そのものと同じくらいの価値があるんです」
お会いしたことはありませんが、星野リゾートの星野佳路さんや、自遊人の岩佐十良さんも同じような考え方を持っているように思います。
都会・地方にかかわらず昔のものはどんどん消えていきます。樹を切らずに、その樹を生かせるようなリスペクト・コンセプトを創案して、家や街をつくる。そんな発想を持った経営者がもっともっと出てきて欲しいなと思います。