変と不変の取説 第67回「引きこもってるのは誰?」

「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。

 第67回「引きこもってるのは誰?」

前回、第66回は「オスはもう要らない」

安田

いま引きこもりが、いろいろ問題になってまして。

だいぶ前からですよね。

安田

そうなんですけど。最近は親が歳をとっちゃって。自分がいなくなったあと「どうやってこいつは生きていくんだ」っていう。

「8050問題」みたいな感じですね。

安田

はい。引きこもってる人もいい年齢で。なんとか社会になじませて「自分で稼げるようになってほしい」と。

心配で死ぬこともできないですね。

安田

ホントに。で、最近は「引きこもりを外に出すビジネス」っていうのがあるらしいんです。

そんなのがあるんですか。

安田

無理やり引きずり出すのに近いんですけど。

それは逆効果でしょ。

安田

まさに。それで自殺しちゃった人とかも出てきて。

そうなりますよ。

安田

でも、ずっと家に置いといたら解決するってわけでもないし。

ですね。

安田

中年になるまでずっと引きこもっていて、お母さんが死んじゃったのに通報もできなくて、死体遺棄で捕まった人がいました。

長いあいだ誰とも話をしていないと、言葉が出なくなっちゃう。

安田

そうなんです。だから死体遺棄というよりは「何もできなかった」ってかんじ。

この前も元次官の人が「息子を殺した」って事件があったじゃないですか。

安田

ありましたね。意外にも殺した親の方に同情が集まって。

家で暴力を振るってたみたいですから。

安田

はい。「息子が暴れて近所の人を殺すかもしれない」って危惧して。それで殺しちゃった。

同情する人も出て来ますよ。

安田

はい。「親が片付けてよかったんじゃないか」って。生まれながらにして「人を殺す欲求」を持った人がいるそうですよ。

いますね。

安田

引きこもりも、そういうのがあるんでしょうか。生まれながらの性格とか。

引きこもりは環境要因のほうが大きい気がします。

安田

そうですか。

はい。野生動物は引きこもらないので。

安田

確かに。

引きこもってたら死んじゃうので。必ずエサをとりにいきます。

安田

引きこもって死んじゃった動物なんて、聞いたことないですもんね。

人間の場合は核家族になってしまったのが、いちばん大きな原因だと思います。

安田

核家族ですか。

人とのつながりが薄いので、親の評価だけで生きてる。昔は周りにいろんな人がいたんですよ。仕事してないプータローのおじさんとか、寅さんみたいなのとか。

安田

ホントにいたんですか?寅さんみたいな人。

いっぱいいました。ああいうのに囲まれてると、いろんな生き方が見えるし、世界が広がるんですよ。

安田

なるほど。

核家族でひとつの学校と往復してるだけだから、世界が狭くなってしまう。

安田

寅さんは引きこもりではないんですか?

引きこもりじゃないですよ。フーテンです。寅さんは。

安田

紙一重な感じもするんですけど(笑)違うんでしょうか?

寅さんはいろんな人との出会いがあって、恋愛もしながら生きてますから。

安田

意外と生活力があったり?

口達者ですから。

安田

今は親が構いすぎなんですか?寅さんは家族に放置されてる感じ。

それもありますね。

安田

どうやったら引きこもりって、なくなっていくんでしょう。

私もいろいろ見てきたんですけど。社会的に認められる場がないので「家の中にいるしかない」って感じ。

安田

私も子供の頃はそうでした。先生にも友達にも認められないので居場所がなくて。家に引きこもってました。

安田さんは何がきっかけで出てこれたんですか?

安田

私の場合は「親が認めてくれた」ってのが大きいかもしれません。いつも肯定されてましたので。

親の肯定はすごく大事なんです。

安田

社会に出ていく自信をなくす人って、親の肯定感が低い人かもしれませんね。

世の中の価値基準と相対評価で「おまえは」って言ってしまうのが一番ダメ。

安田

そうですよね。

それがいちばんの原因かもしれない。

安田

「おまえはえらいよ」とか「すごいよ」とか「価値あるよ」って、ずっと言ってあげたら、引きこもりにはならないかも。

本人だけを絶対価値で見たらいいんですけど。誰かと比べるんですよ、必ず。

安田

でも、それだと「家は居心地が悪い」はずですよね。なんで家に引きこもるんですか。

引きこもってるけど親とは会話しないんですよ。

安田

じゃあ、家の中のさらに狭いところに引きこもってると。

自分の部屋だけですね。居場所は。

安田

なるほど。じゃあその部屋の「ドアを取っちゃう」とか。

そんなことしたら、えらいことになる。暴れ出す。

安田

親御さんも大変なんでしょうけど、まず「原因が自分にある」って思わないとだめなんでしょうね。

いろんな要因があって、「親の評価」「親から愛されてない」で引きこもる人もいるし、親からは愛されてるけど「社会が狭すぎて行くとこない」で逃げ込んでる人もいる。

安田

じゃあ親には原因がないケースもあると。世間が冷たいってことですか。

世間が冷たい。ただそこで親が背中を押してやらずに「よしよし」してしまった可能性はある。

安田

野生動物は無理やり巣立ちさせますもんね。

人間の親は巣立ちのさせ方が分からないんでしょう。

安田

親の話を聞いてると「自分で稼げる人になりなさい」みたいな感じです。

はい。結局、親もお金とか社会の仕組みに縛られてる。

安田

「べつに金なんか稼げなくても生きていける」って、教えてあげて欲しいですよね。

「稼げる」とかより、自分なりの場所が見つかることのほうが大事なんです。

安田

そうですよね。親って「自分はちゃんとしてるのに」って思ってる人が多いような気がするんですけど。

思ってますね。「俺はちゃんと生きてるのに」って。

安田

でも大人って、ぜんぜん自立してないですよね。「もっと給料払え」とか「国が不景気をなんとかしろ」とか。国や会社に依存して生きてる。

大人も含めて全体が“精神的引きこもり”なんですよ。それがこの国の最大の問題。


場活師/泉一也と、境目研究家/安田佳生
変人同士の対談


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第1回:「変わるもの・変わらないもの」
長い間、時間をかけて構築された、感覚や価値観について問い直します。

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