第71回「独占権と社会の反応」

このコラムについて
世の中の情報は99%が「現在」または「過去」のものでしょう。たった1%の未来情報をつかめる人だけが、自分のキャリアやビジネスを輝かせるのです。でも、未来情報なんか手に入らないよ!と思ったアナタ。ご安心を。もしアナタが古い体質の会社に勤めているなら超ラッキー。そんな会社の経営者ならビジネスがハネるかも。

未来コンパスが、あなたの知らない未来を指し示します。

 第71回  「独占権と社会の反応」

鬼滅の刃のキャラクターの服に描かれている模様が商標登録出願され、3つが登録査定、3つが拒絶査定となりました。


■21年6月 登録査定
商標権者:株式会社集英社
商標登録第6397488号 他
【商標】

■21年9月 拒絶査定 ※審判で争われる可能性あり。
商願2020-078058号 他
【商標】


【指定役務】スマートフォン用ケース キーホルダー 文房具類 かばん類 被服 おもちゃ 等


拒絶査定がなされたのは、左から竈門炭治郎、竈門禰豆子、我妻善逸が着ている服の模様です。
例えば、炭治郎の服に描かれている模様は、いわゆる市松模様に過ぎず、集英社の業務にかかる商品を識別する商標ではないとして、拒絶されています。たしかに、市松模様は、江戸時代中期から使われている伝統的な模様で、集英社に独占させるのは適さないとも感じます。

未来コンパスが指すミライ

集英社の商標登録出願が公開された2020年7月ごろ、ネット上でちょっとした炎上が起こりました。

例えば、集英社に対し以下のようなコメントがありました。
・かなり非常識な感じがする。
・麻の葉や市松模様は、このマンガが作成したものではない伝統模様。商標が通らないことを祈ります。
・集英社しっかりして。まさか受理されるとは思わないけど、そもそもこういうのは出さないでほしいわ。

こうした批判は、「有名企業が公共財産を独占する(自分たちのものを横取りする)」と感じた時に起こるのではないでしょうか。電通が「アマビエ」について商標登録出願をした時も同様の批判がありました。

実は私も、似た問題で悩んだ経験があります。
「Workforce Experience」という言葉を日本でも広めたいと考えている一般社団法人の役員から、それを商標権で保護するべきかと相談を受けました。「Workforce Experience」とは、「仕事は、人生において大切な体験そのものである」という考え方を表す、欧米の人事関係者の間で少しずつ使われ始めていた言葉です。

その役員は、Workforce Experienceについて「日本で安心して使えるようにしたい」、「悪意ある第三者による商標登録を防ぎたい」という考えがある一方で、自らが商標権を取ることで他の企業が使用をためらい、普及を妨げてしまうのではないかと危惧していました。
話し合いの結果、「商標登録はする」が「独占はしない(考えを同じくする企業が自由に使えるようにする)」という結論に至りました。権利を確保することで、むしろ安全な使用環境を整えるという考えです。

商標権を取得する本来の目的は、ビジネスの保護・発展です。
些細なことで炎上する時代において、一般用語として普及しうる言葉について出願をする場合は、社会に納得してもらえる理由を持つことが必要で、それを丁寧に伝えることが重要だと痛感した事例でした。

 

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 この記事を書いた人  

八重田 貴司(やえだ たかし)

外資系企業/法務・知財管掌。弁理士。
会社での業務とは別に、中小・ベンチャー企業への知財サポートをライフワークとする。クライアント企業が気づいていない知的財産を最大化させ、上場時の株価を上げたり、高値で会社売却M&Aをしたりと言った”知財を使って会社を跳ねさせること”を目指す。
仕事としても個人としても新しいビジネスに興味があり、尖ったビジネスモデルを見聞きするのが好き。

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