その77「コナー・マクレガーのブランドプロミス」

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なぜこんなツマラナイものにこだわるのだろう。そういう「ちょっと変わった人」っていますよね。市川さんはまさにそういう人。でもそういう人が今の時代にはとても大事。なぜなら一見ビジネスになんの関係もなさそうな、絶対にお金にならなそうなものが、価値を生み出す時代だから。凝り固まった自分の頭をほぐすために、ぜひ一度(騙されたと思って)市川ワールドへ足を踏み入れてみてください。

コナー・マクレガーのブランドプロミス

僕、格闘技が趣味で、自分でもちょっとかじってるんですが、今日はそれにまつわるブランディングのお話。

日本だとK-1やRIZINといった格闘技団体が有名ですよね。
こうした格闘技団体って、営利団体ですしそういう意味では普通の会社と変わりません。
つまり、その業界の老舗企業やトップ企業ってのがいるんです。
実は日本で知名度の高いK-1やRIZINというのは、業界のトップどころと比較すると、ものすごく小さい存在なんです。
ちなみに、世界最大の総合格闘技団体は、アメリカに本拠地を置くUFCって団体なんです。
世界中の猛者が集う場所で、多くの格闘家のあこがれの場所になっています。
ですから、「世界最強の証明には、UFCでチャンピオンになることは欠かせない」と思っている格闘家もたくさんいます。

そして、その団体のトップの一人に選手にコナー・マクレガーという人がいます。
彼はUFC史上3人目の二階級制覇王者で、UFC史上初の二階級同時王者。
アイルランド人史上初のUFC世界王者ということもあり、アイルランドで最もキーワード検索された人物としてメディアで紹介されたこともあります。

コナー・マクレガーですが、自己演出、ブランディングが抜群に上手いんです。
彼は試合前のトラッシュトークをブランディングに活用しているのですが、とにかく不遜な態度で相手を罵り、煽りまくるんです。
人気選手にはニックネームがつけられるんですが、彼は「Notorious(悪名高い)」というニックネームがついていますw。

そうして、戦略的に印象操作して、ヒール(悪役)のポジションをとり、UFCファンたちが「誰か、マクレガーをぶちのめしてくれ!」と言いたくなるような存在になっていくわけです。
ところが、やたらめったら強くて、対戦相手をことごとく返り討ちにしていくんです。
そしてノリノリの様子をSNSで投稿し、「この調子に乗っているヤツをこらしめてくれ!」というアンチの声を大きくしていきます。
つまり、彼の試合を求めるアンチの声を創り、需要をガンガン高めていくんです。
一方で、彼の華のあるファイトや、痛快なトラッシュトークを見て、彼のファンもドンドン増えていきます。
当時最強王者と呼ばれた選手の前に立つために、世界中の猛者相手にKO勝利を重ね、マイクパフォーマンスで煽りまくります。
とうとう、当時世界最強と言われた王者の前に立ち、結果、UFCのタイトルマッチ史上最短記録(1R開始13秒)を更新する衝撃的なKO劇を演じます。
そして、彼は勝利者インタビューで
Precision beats power, and timing beats speed.
(精度はパワーに勝り、タイミングはスピードに勝る。)
と語り、強さを証明し、有限実行の英雄になります。

そうして、PPV(ペイ・パー・ビュー)の売上が最も良い選手になっていきます。
UFCという会社からすると、一番売上を作る選手ですから、彼の要求は無視できませんし、彼のファンの声は無下にできません。
自身の価値を高める試合、莫大な売上が見込める試合を自ら選択できるポジションになっていきます。非常に戦略的です。
ボクシング界のレジェンド、フロイド・メイウェザーとも戦い、20億円以上のファイトマネーを手にします。

そのマクレガーですが、先日の試合で、左足の足首上部(脛)がポッキリ折れて、試合中にグニャリと曲がってしまったんです!
※検索するとたくさん出てくると思いますが、グロ映像なのでご注意ください。
当然、ドクターストップとなり、試合には負けてしまいます。
ところが、マクレガー、そこからがすごいんです。
「この試合はまだ終わってない!終わらせない!悔しかったら殴ってみろ!」などと吠え続けるんです。(もちろん、殴られないの分かってての発言なんでしょうけど)
さらに、足がグニャってなっているのに、そのままインタビューにも答えちゃいますし、タンカで運ばれるときも何かを叫び、ファンにアピールし続けるのです。

実は格闘技の試合では、彼とおなじ様に脛がポッキリ折れて、くの字に曲がるということがたまに起こります。
僕が見た格闘家たちはもれなく、絶叫し、自分の足を見てパニックになります。
当然ですが、とてもインタビューなんて受けられません。
だから、足がグニャってるのに、マクレガーがいつものマクレガーと変わらず吠えまくっていたのを見て、本当に驚きました。
その後、SNSでも強気の姿勢を崩さず、動かない左足以外のトレーニングに励む姿をアップし続けるのです。

彼は、彼自身が創り上げた「コナー・マクレガー」というブランドを維持するため、アンチを含めたファンたちとの間にあるブランド・プロミスを守るため、僕らが知る、期待する「コナー・マクレガー」であり続けないといけないのです。
ブランドプロミスを守り続けることで、彼は素晴らしいブランドを創り上げました。
そしてついに、2021年にはアスリートの長者番付で1位にまで登りつめます。(ちなみに彼はウィスキーブランドを持つなど、格闘技以外のビジネスもやっています)

コナー・マクレガーであることがブランドそのものですから、彼がマーケットと約束したブランドプロミスに応えるため、足がグニャって折れても取り乱して叫んではいけなかったんです。
いつも強気なマクレガーを皆が求めているんです。
そして、不思議なもので、アンチも弱いマクレガーは見たくないんです。
これを理解して、徹底するマクレガーの頭の良さ、徹底ぶりに超一流を感じました。

マクレガーでなくとも、誰もが他者に何かを期待されています。
これは、いつの間にか他者との間にブランドプロミスによるものです。
あなたがどう思おうと、無意識にやってきたブランディング(垂れ流してきた情報)によって、ブランドプロミスはいつの間にか創られているのです。

そう考えると、マクレガーは単に強いというだけでなく、ブランディングによって、あの地位を築き上げた「ブランディングの達人」だということがわかります。

 

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著者/市川 厚(いちかわ あつし)

株式会社ライオンハート 代表取締役会長
https://www.lionheart.co.jp/

LH&creatives Inc.(フィリピン法人) CEO
https://lionheart.asia/

<経歴>
三重県の陶芸家の家に生まれる。
(僕が継がなかったので、父の代で終焉を迎えることになる…)
大学時代、遅めの中二病を発症。経済学部に入ったのに、何を思ったか「ファッションデザイナーになるんや!」と思い立ち、大学を中退。アパレル企業に就職。
ところが、現実は甘くなく、全く使えない僕に業を煮やした社長から、「Webサイト作れないとクビだからな!」と言われ、泣く(T_T)パソコンの電源の付け方も知らなかったけど、気合でWebサイト制作を習得。しかし、実際のところは、言い訳ばかりで全く成長できず・・・怒られて、毎日泣く(T_T)そんな頃、「デザインにも色々ある」と改めて気づいて、広告業界へ転職、広告制作会社のデザイナーとしてのキャリアをスタート。
「今度は言い訳をしない!」と決めて仕事に没頭し、四六時中仕事していたら、黒目がめくれ上がってきて、眼科医から「失明するよ」と言われ、ビビる。2004年勤務先で出会った同僚や友人を誘って起業、有限会社ライオンハートを設立(現 株式会社ライオンハート)。ところが、創業メンバーとあっさり分裂、人間不信に。残ったメンバーと再スタート。
2014年、設立10周年を機に、創業メンバーで唯一残っていた人間を日本法人の社長にし、自身は会長になり動きやすい状態を創る。この頃からブランディングエージェンシーを名乗り始める。
2016年、フィリピン(マニラ)にITアウトソーシング企業(LH&creatives Inc.)を設立。設立準備期間から家族とともに移り住み、フィリピンで3年半を過ごす。
フィリピン人マネジメントを通して、猜疑心の塊になり、性悪説に変わる。
2019年6月、日本に帰国し、日本法人のマネジメントに復帰。社内コミュニケーションを充実させるために席替えしたり、誰も掃除しない椅子をきれいにしたり、「眠いときはしゃべった方が良いよねッ」ってスタッフに話しかけながら仕事をするなど、独自のインナー・ブランディングの理論を実験していたところ、会社の調子が上がった。そもそもブランディングってなんだ?と思っていたところに、BFIの安田さんと出会い、勝手にご縁を感じてコンサルを受けてみる。そしたら安田さんに誘われ、2020年、anote konoteに参加することに。

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