第120回 ミャクミャクが「セオリー無視」でも大ヒットした理由

この対談について

“生粋の商売人”倉橋純一。全国21店舗展開中の遊べるリユースショップ『万代』を始め、農機具販売事業『農家さんの味方』、オークション事業『杜の都オークション』など、次々に新しいビジネスを考え出す倉橋さんの“売り方”を探ります。

第120回 ミャクミャクが「セオリー無視」でも大ヒットした理由

安田

大阪万博が終わってしばらく経ちましたけど、公式キャラクターの「ミャクミャク」っていたじゃないですか。


倉橋

ええ、私も万博に行った時にグッズを買いましたよ。

安田

ああ、そうでしたか。今でこそ万博の顔としてすっかり定着しましたけど、発表された当初は「気持ち悪い」「怖い」っていうネガティブな意見も多かったんですって。


倉橋

そうらしいですね。実際、目が何個もあったりして、ドキッとする見た目ではありますし。

安田

確かに確かに。ところが蓋を開けてみればグッズの売上は絶好調。万博終了と同時に打ち切り予定だったのが、人気が出すぎて来年3月までグッズ販売が延長になるくらいの人気ぶりで。このあたり倉橋さんはどう見ていました?


倉橋

いやぁ、正直言ってここまで売れるとはまったく思ってなかったです。ビジネスセオリー的に見ても正直なぜなのかわからない。

安田

ほう、やっぱり倉橋さんもそう思われますか。


倉橋

ええ。特にキャラクターものって、科学的なロジックに基づいて売れていくと思っていたんです。でもそうではなかった。そういう意味でも「一体、人は何に惹かれて購買に至るのか」を深く考えさせられるニュースでした。

安田

倉橋さんは常々「プロダクトアウト(作り手の理論)」ではなく「マーケットイン(市場の声)」が重要だと仰っていますよね。その理論からすると、「気持ち悪い」という市場の声が届いた時点で、可愛いデザインに変更するなどの選択肢もあったわけじゃないですか。


倉橋

いや本当に。あれだけ反対意見が殺到してしまったら、僕ならデザインを大幅に修正して、もっと無難な方向に変えていた可能性が高いです。

安田

普通そうしますよね。でも実際は、作り手の世界観(プロダクトアウト)を押し通した結果、こうして大ヒットした。


倉橋

すごいですよね。もし僕が手掛けていたら、これほどのヒットにはなっていないでしょう(笑)。

安田

そうかもしれませんけど、私も最初に見たときは、正直「センス悪いな」と思いましたからね。奈良の「せんとくん」の時もまったく同じことを思ったんです。でもせんとくんもミャクミャクも、結果的にはどちらも大人気キャラになった。

倉橋

そうですね。どちらも「よくある普通のデザイン」ではないのが良かったのかもしれません。

安田

結果的にはそういうことですよね。世のゆるキャラって可愛いものばかりだから、その異質さが逆にものすごく目立つ。でもそもそもね、一般の反応がどうと言う前に、よく大阪府がこんな一か八かのデザインを通したなって思いません?

倉橋

確かに。考えてみれば大阪万博自体、開催前はネガティブキャンペーンの嵐でしたよね。随分叩かれていた印象があります。

安田

ああ、そうでしたね。「税金の無駄遣いだ」とか「本当に人は来るのか」とか、さんざん言われていましたよね。

倉橋

そうそう。そういう意味では、そういったネガティブな空気をひっくり返すために、あえてエッジの効いたものでスタートを切る、ということになったのかもしれませんね。

安田

ああ、なるほどなぁ。でも普通、行政のお役人の方って無難な選択をしがちじゃないですか。特に万博のように、自分のお金ではないプロジェクトなら、なおさら失敗を恐れて安全策に走る。

倉橋

そうですよね。でも今回に関しては、お役所仕事ではない「意地」のようなものを感じます。

安田

そうそう。結果、批判覚悟でエッジの効いたキャラを打ち出し、大成功を収めた。すごいことですよね。これだけ記憶に残るキャラクターってなかなかいない気もしますし。

倉橋

確かに今までのキャラクターってパッと思い出せませんもんね。でもミャクミャクくんは今後も長く印象を残すでしょう。

安田

対抗できるとしたら1970年の大阪万博の「太陽の塔」くらいでしょうか。…でも太陽の塔も、建設当時は「なんだあれは」と非常に評判が悪かったらしいですね。でも結局は万博の象徴として、今も生き残り続けている。そう考えると、発表当初の大衆の意見ってあまりアテにならないのかもしれませんね。

倉橋

そうかもしれません。いずれにせよ事業としては大成功、大当たりだったと思います。

 


対談している二人

倉橋 純一(くらはし じゅんいち)
株式会社万代 代表

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株式会社万代 代表|25歳に起業→北海道・東北エリア中心に20店舗 地域密着型で展開中|日本のサブカルチャーを世界に届けるため取り組み中|Reuse × Amusement リユースとアミューズの融合が強み|変わり続ける売り場やサービスを日々改善中|「私たちの仕事、それはお客様働く人に感動を創ること」をモットーに活動中

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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