第53回 万代が土地を買わない理由

この対談について

“生粋の商売人”倉橋純一。全国21店舗展開中の遊べるリユースショップ『万代』を始め、農機具販売事業『農家さんの味方』、オークション事業『杜の都オークション』など、次々に新しいビジネスを考え出す倉橋さんの“売り方”を探ります。

第53回 万代が土地を買わない理由

安田

倉橋さん、「出店するときにはすべて賃貸で借りている」とXで投稿されてましたよね。土地を買わずあえて賃貸にする理由があるんでしょうか?


倉橋

まず一つ言えるのは、万代は「小売りサービス業」であって「不動産屋さん」ではないということです。例えばイオンは元々不動産デベロッパーなので、「土地を購入してそこに人を集めることで土地の値段を上げていく」というビジネスがベースになっているんですけど、万代はそうじゃない。

安田

へぇ、イオンって不動産デベロッパーだったんですね。スーパーマーケットが本業かと思ってました。


倉橋
そう見えがちですけど、実はそうじゃないんです。「不動産投資」っていう観点でイオンを見るとおもしろいですよ。
安田
そう言われると確かに、一面が田んぼのような土地にドーンと建物を作って、そこに集客していくイメージですもんね。

倉橋

ええ。というのもそういう土地って、端的に安いわけです。「路線価」といって、土地の評価額は交通量に応じて決まる側面があるので。安い価格で土地を取得し、そこに店舗を作って人を集める。そうすると交通量も増え、路線価も上がっていくと。さらにそれを担保に新しい店舗を作っていく、というビジネスモデルです。

安田

ははぁ、賢いやり方ですね。1億で買った土地の価値が2億になったら、単純に1億分の資産が増える。それを担保に新たな借り入れをして、ビジネスを大きくしていく。


倉橋

仰るとおりです。借り入れ総額=信用度なわけで、それが大きくなれば土地の取得もやりやすくなる。まさに好循環ですよね。

安田
なるほどなぁ。じゃあイオンがスーパーをやめて、持っている土地を全部売ったら大金持ちになるわけだ(笑)。

倉橋

そういうことですね(笑)。

安田

ちなみにそういうやり方って、イオンが大々的に公表しているわけじゃないと思うんです。倉橋さんはどうやって気づいたんですか?


倉橋
僕は職業柄、毎年発表される各地の路線価をチェックしているんです。それを何年も見ているとね、だんだん見えてくるんですよ(笑)。田んぼばかりで路線価が低い土地にイオンのスーパーが建って、その後その土地の値段が上がっていく。そういう現象が全国色んなところで起こっているので。
安田
ははぁ、なるほど。でも、路線価が交通量で決まるなら、人口が減れば自然と下がるわけですよね。今日本は少子化で、特に地方で人口減少が顕著だと言われてますけど、そうなると路線価が下がる一方なんじゃないですか?

倉橋
もちろん地域やタイミングによって様々ですが、仰るように「資産価値」としては下がっていくでしょうね。そういう意味では、自分が住む分にはいいでしょうけど、資産運用の一環で買うのはオススメしませんね。
安田

ああ、やっぱり。ちなみに路線価って、観光客も人の数に含まれるんですか? 仮に含まれるなら、地方でも観光客をガンガン誘致できれば、土地の値段も上がっていくわけですよね。


倉橋
ええ、観光客も含まれます。実際北海道のニセコのようなインバウンドが押し寄せている場所は、路線価もどんどん上がってきていますよね。
安田

なるほどなるほど。そう考えるとインバウンド向けのビジネスってやっぱり重要ですね。…その話でふと思いましたが、中国の方って広い土地を一気に開発してガーっと人を集めるのが得意ですよね。で、それをドカッと売ってまた別の事業に投資する。すごく理にかなってるんですね。商売上手というか。

倉橋
お金とか不動産の理屈がわかっているんでしょうね。でも実は日本でも、バブル期はそういうビジネスが主流だったんですよね。まず土地を購入して、その土地を担保に銀行からお金を借りるというのがセオリーでしたから。
安田

ああ、確かに。景気がいいからどんどんお金を借りられて、またそのお金で新たな土地を買うということができた。

倉橋

そうそう。でもバブルがはじけたら、手のひらを返したように銀行から返済を迫られて、それであちこち倒産してしまった。僕の父もそうでしたけど。

安田

ははぁ。そう考えると、イオンのビジネスも絶対的なものではないかもしれない。

倉橋
そう思います。そもそもビジネスに絶対はないですから。万代もイオンにテナントとして入ってますけど、常に「来店数」を気にしている感じがしますね。逆に言うと各テナントの「売上」にはそこまでシビアではないというか。
安田

そうか。イオンにとってはどれだけ人が集まっているか=土地の値段が上がるかの方が重要なんですね。でも万代さんも集客に注力しているわけで、同じように土地を買ってお店を作って、というビジネスにしてもいい気がしますけど。

倉橋
うーん、できないことはないんでしょうけど、僕としては1億あったら「土地」ではなく「商材」に使いたいんですよね。
安田

なるほど。資金に余裕があるなら、土地を買って値上がりするのを待つのではなく、自分の本業に突っ込みたいということなんですね(笑)。

倉橋
そういうことです(笑)。億万長者だったら土地を買ってるかもしれませんけど、限られた資金の中だと、やっぱり土地より商材に使いたいんです。
安田

なるほどなぁ。「土地を買って値段を上げていく」というゲームが、倉橋さんにとってあんまりおもしろくないのかもしれませんね(笑)。資金が余るほどあったとしても、別のことに使いそうな気がします(笑)。

倉橋

そうかもしれません(笑)。もっとも、不動産も仕組みとしてはおもしろいと思いますけどね。ただ、そういう俯瞰の視点でビジネスに関わるより、店舗の中で駒として働いている方がずっと楽しいので。

安田

確かにそんな感じしますもんね(笑)。徹底して現場主義というか。それに、ビジネスとしても収益化するまでのスパンが長いでしょうしね。

倉橋
ああ、それもありますね。ある程度の広さの土地を買おうとすると、かなり本腰入れてやらないと難しいです。その区画の中で売ってくれない人がいたら、ずっと粘り強く交渉しないといけなかったり。
安田

うーん、それはそうだ。大きいビルを建てようとしてるのに、一角だけ変な形で残ってしまってるところを見かけますもんね。「ああ、あそこの土地の人は断固として売らなかったんだな」という。

倉橋

そうなんですよ。そこにお金やパワーをかけるよりも、本業でお客様に喜んでいただく方が性に合ってるんだと思います。


対談している二人

倉橋 純一(くらはし じゅんいち)
株式会社万代 代表

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株式会社万代 代表|25歳に起業→北海道・東北エリア中心に20店舗 地域密着型で展開中|日本のサブカルチャーを世界に届けるため取り組み中|Reuse × Amusement リユースとアミューズの融合が強み|変わり続ける売り場やサービスを日々改善中|「私たちの仕事、それはお客様働く人に感動を創ること」をモットーに活動中

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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