日本人は中東を「イスラム教の国々」と一括りにしてしまいがち。でも中国・北朝鮮・日本がまったく違う価値観で成り立っているように、中東の国だって様々です。このコンテンツではアラブ首長国連邦(ドバイ)・サウジアラビア・パキスタンという、似て非なる中東の3国でビジネスを行ってきた大西啓介が、ここにしかない「小さなブルーオーシャン」を紹介します。
質問
日本は中東の国とは仲がいいのでしょうか? アメリカと仲がいいから嫌われたりしませんか?
日本に対する印象はけして悪くありません。どちらかといえば良いと思います。
その理由の一つとして、日本は過去中東諸国と直接的な敵対関係に陥ったことがないことが挙げられます。
彼らは日本に対してどんなイメージを抱いているのでしょうか。
個人的に聞いたものや一般的に言われているものをざっと挙げますと、
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- アニメ、ゲームなどの各種コンテンツが有名である
- 小さい国だが高品質な家電や車を作る技術大国である
- 小さい国なのにロシアや中国といった周囲の大国に戦いを挑んだことがあり、ロシアには一度勝った
- 原爆投下でボロボロの状態から経済復興を遂げ、小さい国ながら経済大国になった
と、概ね高評価だといえるでしょう。
小さい国、という前置きがちょこちょこ入ってくるのが気になりますよね。カタールやクウェートなどに比べれば日本ずっと大きいのですが、中国やロシアが近くにあるので小さく見えるのかもしれません。いずれにしても、「日本は小さい国だがけっこう凄い国である」というイメージを持たれています。
アメリカとの関係については、日本はアメリカと仲がいいというよりむしろ中立の立場を取っている(取ろうとしている)ように映っているのではないかと思います。
好き嫌いを抜きにして、国際政治の舞台でうまく立ち回るためにアメリカとの関係を重視している国は中東にも多いため、日本の立場を理解している側面があるのかもしれません。
民間レベルで見た場合でも、親日の人は多いように思います。
あくまで個人的経験ですが、日本または日本人が嫌いということをあまり聞いたことがありません。もちろん、私が日本人だから言わないだけかもしれませんが。
今のところ日本人だからという理由でイヤな思いをしたこともないです。逆に、むしろ助かったエピソードはあります。
以前私はサウジアラビアで警察に捕まったことがありますが、日本人ということで難を逃れました。
ことの発端は、夜タクシーで走っているときに変わったビルを見つけたことでした。ネオンライトがビルを彩るのはよく見ますが、なんとその色が1.5秒間隔で次々と変わっていくのです。その独特のセンスに好奇心が爆発してしまい、窓を開けて写真をパシャパシャ取っていたところ、警察に捕まりました。
ビルの方角から一人の警官がホンダのバイクでやってきて、私にむかって「お前!タクシーから降りろ!」と言いました。運転手を見ると、頭に手をやって「あちゃー」といった表情を浮かべています。
公共施設や人をむやみに撮らないよう心掛けていましたが、撮影してはいけないような重要施設だったのでしょうか。それにしては興味をそそります。
(↑色の変わる建物。全色一巡するまで撮りたかったが7色目で捕まった)
命令にしたがって車を降りるや否や、パスポートと電話を没収され、少し離れた人のいない道路高架下までホンダのバイクで連行されました。海外では電話、現金、パスポートという3種の神器があれば最悪何とかなると考えている私ですが、そのうち2つが一度に没収されました。まさに危機の到来といえます。
警官は大変怒って興奮しており、「何をやっていた」「撮ったものを見せろ」と矢継ぎ早にまくし立ててきます。彫りの深いアラブ人は怒ると怖く、私はうろたえました。
自分は怪しい者ではないです、ビルが美しかったので写真を取っていただけです、と説明しても警官の怒りは一向に鎮まらず、疑いの目はより厳しくなりました。そして、いっそう彫りの深くなった顔で「撮った写真だけでなくフォルダにあるものを全て消去しろ」と言いました。
さすがに全部はまずいです、仕事で必要な写真があるので、というと「お前は何者だ?どこから来た」と聞かれました。没収したパスポートを見れば国籍はわかるはずですが、本人からも言質を取っておきたいのかもしれません。
「日本人です。ビジネスで来てます」と答えると、少し間をおいて「日本か、珍しいな」と若干表情が緩んだように見えました。あれ? なぜ日本と聞いただけで?
違和感と同時に「もしかして」と思った私は、「あなたのバイクもホンダ、日本ですよね」と続けました。
すると「その通りだ。ホンダ……それは最高の相棒!君もホンダと同じ、メイドインジャパンか!」と、急に表情が笑顔に変わりました。
ウソのような話ですが、それだけで怒りがなくなったのです。それから彼は、ホンダのバイクがいかに素晴らしいかをひとしきりしゃべった後、私の話す事情を丁寧に聞いてくれました。
私を捕まえた理由は「バイクを撮られたと思ったから」でした。警察の写真をむやみに撮ってはいけないのはわかりますが、私が撮っていたのはただの奇抜なビルです。写真を見せてバイクが写りこんでいないとわかると「日本に帰るまで気をつけろよ。あと警官のバイクは撮るなよ」と言って、パスポート・携帯とともに釈放してくれました。
日本人でよかった、と心から感じた出来事でした。警官が単に無類のホンダ好きだった可能性も高いですが、日本と言うキーワードで窮地を脱したことは事実です。
いまや中東諸国でも、同じ東アジアの韓国や中国製品が競合として台頭しており、もはや日本製品というだけで選ばれるような時代ではありません。しかし、日本は過去に獲得した信頼の貯金があるのもまた事実です。まだまだ「メイドインジャパン」のフレーズが力を持つ地域なので、売り方を工夫して、きちんと魅力をアピールすることができれば、日本製品が彼らの需要にマッチする可能性は大いにあると思います。
……と、ここまで耳障りのいいことを書きました。しかし、実際は日本に全く興味のない人も大勢います。悪いイメージを持たれていないのは、嫌いになるほど知っているわけではない、というだけかもしれません。これまで敵対関係になったことがないことからもわかるように、日本は遠い国なのです。日本のカルチャーに興味のある人は一定数いるものの、好きでも嫌いでもない人が大半である、というのが実際のところかもしれません。
日本側からの発信、知ってもらう努力はもっと必要です。
今回書ききれませんでしたが、日本の良いイメージに繋がっている事柄の概要を一部ご紹介します。
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- トルコ … エルトゥールル号遭難事件
- イスラエル … 杉原千畝の「命のビザ」
- イラン … 連続テレビ小説・おしんが視聴率90%超え
- サウジアラビア … 日本文化紹介番組でドン引きするほど日本人絶賛
それぞれ長くなるので、またの機会にご紹介できればと思っています。
ご興味があれば調べてみてください。
この記事を書いた人
大西 啓介(おおにし けいすけ)
大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。在学中はスペイン語専攻。
サウジアラビアやパキスタンといった、どちらかと言えばイスラム感の濃い地域への出張が多い。
ビビりながらイスラム圏ビジネスの世界に足を踏み入れるも、現地の人間と文化の面白さにすっかりやられてしまった。
海外進出を考える企業へは、現地コネクションを用いた一次情報の獲得・提供、および市場参入のアドバイスを行っている。
現在はおもに日本製品の輸出販売を行っているが、そろそろ輸入も本格的に始めたい。大阪在住。
写真はサウジアラビアのカフェにて。