日本人は中東を「イスラム教の国々」と一括りにしてしまいがち。でも中国・北朝鮮・日本がまったく違う価値観で成り立っているように、中東の国だって様々です。このコンテンツではアラブ首長国連邦(ドバイ)・サウジアラビア・パキスタンという、似て非なる中東の3国でビジネスを行ってきた大西啓介が、ここにしかない「小さなブルーオーシャン」を紹介します。
質問
「イスラム教では一夫多妻制を認めていると聞きましたが、実際はどうなんですか?」
たしかにイスラム教では四人まで妻を持つことが許されていますが、今まで知り合った中では2人以上奥さんがいる男性はいませんでした。(「愛人がいる」と明言する人はいましたが)
サウジの友人に聞いても「ほとんどいねえよ」という回答でした。
理由としてはとにかくお金がかかるとのこと。
夫となる男性は妻となる女性に対して多額の結婚準備金を支払う必要があるのですが、それは夫婦の共用資金ではなく妻個人に入るお金として扱われます。また、共働きだったとしても結婚生活で発生する家計は全て夫が養うのが基本のようです。
そして複数の妻がいる場合、全員公平に扱わなくてはなりません。
住む部屋や生まれた子供に対する待遇はもちろん、第一夫人と第二夫人の贈り物に差をつけてはいけないし、夜の営みも平等に行わなければならないと言っていました。
一日目は第一夫人と過ごし、次の日は第二夫人、三日目は第三夫人……といった感じになるのでしょうか。妻側はローテーション制が採用されているのに対し、夫側は明らかに登板回数が多すぎます。
お気に入りの相手に時間やお金を集中させたくなるのは人情だと思いますが、そんなことをすればすぐにバランスが崩れますし、維持するのは想像するだけでもかなりハードだろうと予測できます。
前回引用した本「イラン人は面白すぎる!」の中に、重婚したクウェート人の話があります。
資産家男性の四人の妻はもともとライバル関係で仲が悪かったが、全員ビートルズ好きという共通点がわかってからは意気投合、アラビア語で「サソリ」という名のガールズバンドを結成するに至ったそうで、夫の悪口をシャウトする曲がヒットしたそうです。バンド名からしてロッキンな感じを受けます。
経済的に余裕のある資産家でさえ平和な一夫多妻生活を実現させるのは簡単ではなく、一般男性となれば言わずもがな、といった感じでしょうか。いたとしても実際にはかなり少数であることが窺えます。
この件について、以前サウジアラビアの友人に聞いたときに返ってきた言葉が印象的でした。
「妻を何人も持つなんて冗談じゃない。『問題』は一つだけで十分だよ」
ハハハ、と笑う彼の声は乾ききっていましたが。
複数の妻を持つことが許されているからと言って、必ずしもその権利を行使するわけではない。権利には相応の義務がつく、ということなのかもしれませんね。
この記事を書いた人
大西 啓介(おおにし けいすけ)
大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。在学中はスペイン語専攻。
サウジアラビアやパキスタンといった、どちらかと言えばイスラム感の濃い地域への出張が多い。
ビビりながらイスラム圏ビジネスの世界に足を踏み入れるも、現地の人間と文化の面白さにすっかりやられてしまった。
海外進出を考える企業へは、現地コネクションを用いた一次情報の獲得・提供、および市場参入のアドバイスを行っている。
現在はおもに日本製品の輸出販売を行っているが、そろそろ輸入も本格的に始めたい。大阪在住。
写真はサウジアラビアのカフェにて。