第40回「お酒はダメだと聞きますが、タバコもダメですか?」

日本人は中東を「イスラム教の国々」と一括りにしてしまいがち。でも中国・北朝鮮・日本がまったく違う価値観で成り立っているように、中東の国だって様々です。このコンテンツではアラブ首長国連邦(ドバイ)・サウジアラビア・パキスタンという、似て非なる中東の3国でビジネスを行ってきた大西啓介が、ここにしかない「小さなブルーオーシャン」を紹介します。

  質問  
「お酒はダメだと聞きますが、タバコもダメですか?」

   回答   

タバコは全然普通にあります。
ただ、全体的に見ると喫煙者の数は減ってきているように感じます。
前回記事でも触れたように健康意識が高まってきており、それがタバコへの意識を変えているのかもしれません。

【中東発祥の水タバコ】

中東では、我々がタバコと聞いて連想する紙巻きタバコよりも、水タバコのほうがポピュラーです。
水タバコはいくつか呼び名がありますが、日本では「シーシャ」と呼ばれるのが一般的です。
シーシャの発祥の地は中東ですが、欧米でも大変人気があり、現在世界中に広まっています。
日本でもシーシャを楽しめるお店は増えてきており、我々が身近に触れることのできる中東文化の一つと言えるでしょう。

【日本で広がるシーシャ文化】

シーシャを楽しむ人の数は、日本でも年々増えています。年齢層は20-30代の人が多く、私もときどき嗜みます。
「社会はタバコや愛煙家に対して厳しくなっているのに、水タバコを吸う人が増えているとは一体どういうことだ」と思う人もおられるかもしれません。
たしかに時代に逆行しているような気はしますが、私にもその明確な理由はわかりません。
ただ、以前私は初めてシーシャを吸うという人たちに「なぜシーシャをやろうと思ったのか?」と理由を聞いていた頃があり、その回答はだいたい次のようなものでした。

・タバコだけどヘルシーだと聞いた
・オシャレな感じがする
・ヤニ臭さが全然ない。むしろいい香り
・アップル、レモン、ストロベリー、ミントなど、いろんなフレーバーがあって楽しい

と、一般的な紙巻きタバコとはイメージがかなり異なっています。また、彼らが口を揃えて「普通のタバコは吸わない」と言っていたことも印象的でした。

(↑水にフルーツを入れるお店もある。ガラスボトルなので写真映えする。Instagramより)
https://www.instagram.com/p/CUMobBbJ_0R/?utm_source=ig_web_copy_link

【シーシャは無害?】

水タバコが比較的ヘルシーだと言われるのは、大きく2つ理由があります。
シーシャにはフレーバーのついたシロップ漬けのタバコの葉が使われますが、その製造過程でタバコの葉を煮たり蒸したりするため、ニコチンやタールの大部分が洗い流される、というのが理由の一つです。
もう一つの理由は、水タバコの名のとおり煙を水でフィルタリングする点にあり、水を通すことでニコチンなど水溶性の有害物質が除去されるというものです。

ただ、シーシャもタバコには変わりありませんから、適量を越えればヘルシーとも言えなくなるでしょう。
一回あたりの時間が紙巻きタバコよりも長くなることに注意を促す論文や、一酸化炭素中毒になる可能性について触れる論文もあります。
たとえ有害性が少ないとしても、時間と頻度の度が過ぎないように注意すべきです。

シーシャを吸うには専用の器具が必要で、携帯性には優れません。また、美味しく作るには相応の技術が要求されます。
自分で器具を揃えて上手に作る人もいますが、それ以外の人が美味しいシーシャを楽しむには「専門店に行く」ことになります。
つまり紙巻きタバコほど簡単にアクセスできず、圧倒的に不便だとも言えますが、結果的に頻度が抑えられるので、この「不便さ」は健康の観点からすれば利点と言えるかもしれません。

(↑シーシャの各部名称。構造がわかれば謎の怪しさも減るはず。JTのサイトより)

「タバコは少量でも絶対イヤ。でも雰囲気だけ楽しみたい」と言う人向けには、タバコの葉を使わないシーシャもあります。タバコの代わりにドライフルーツやサトウキビの繊維を使っていてニコチンフリー/タールフリーなので、無害のシーシャを楽しむことができます。

【至福のひととき】

個人的に、美味しいシーシャ屋を探すのはこだわりの強い喫茶店を探す作業に似ていると思います。
コーヒーや紅茶は、豆や茶葉といった材料だけでなく、淹れ方や作る人によっても味が変わりますが、それと同様のことがシーシャにも当てはまります。
たとえば、一口にアップル味といってもブランドによって全く味は異なりますし、使う器具、炭の温度管理、煙の質感や煙量のコントロールなど、作る人のこだわりが味に大きく反映されます。
ですから、「あそこの店主の作るシーシャは美味しい」「美味しいと聞いて行ったけどイマイチだった」などと評価が分かれるのです。
こういったこだわりによって差が出る嗜好品を、シーシャに限らず日本人は好む傾向があるように思います。

私は紙巻きタバコは吸いませんが、シーシャは結構好きです。
1回楽しむのに要するのは約一時間。
吸う際に呼吸が深くなるので、好きな香りを楽しみながら自然と肩の力が抜けます。
忙しい日常の中にゆったりとした「間」をつくる事ができる、非常にいい方法です。
また、複数人でシェアできるのも魅力の一つです。
(現在、コロナ対策で制限しているお店もあります)

中東のホテルではシーシャを楽しめるところも多いです。
現地の知り合いとの別れ際に「今日、ホテルに帰ったあとはどうするんだ?」と聞かれ、「シーシャ行こうかなと思ってる」と返答すると、禁煙中であるはずの友人が「お前だけに悪いことをさせるわけにはいかない。俺も吸うのに付き合ってやろう」的なノリで参加してくれたことがありました。
「この人、ただ吸いたいだけなのでは」と思いましたが、話が弾んで仲が深まった気がします。
嗜好品は、正しい知識を持ち、適度な距離感で付き合えば、日常に彩りを与えてくれるものだと思います。

シーシャは中東の文化を身近に感じられるものの一つです。ご興味のある方は一度いかがでしょうか。
ただし、ハマっても責任は持てませんので、吸いすぎにはご注意を。

 

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 この記事を書いた人  

大西 啓介(おおにし けいすけ) 

大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。在学中はスペイン語専攻。
サウジアラビアやパキスタンといった、どちらかと言えばイスラム感の濃い地域への出張が多い。
ビビりながら中東ビジネスの世界に足を踏み入れるも、現地の人間と文化の面白さにすっかりやられてしまった。

海外進出を考える企業へは、現地コネクションを用いた一次情報の獲得・提供、および市場参入のアドバイスを行っている。
現在はおもに日本製品の輸出販売を行っているが、そろそろ輸入も本格的に始めたい。

写真はサウジアラビアのカフェにて。

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