日本人は中東を「イスラム教の国々」と一括りにしてしまいがち。でも中国・北朝鮮・日本がまったく違う価値観で成り立っているように、中東の国だって様々です。このコンテンツではアラブ首長国連邦(ドバイ)・サウジアラビア・パキスタンという、似て非なる中東の3国でビジネスを行ってきた大西啓介が、ここにしかない「小さなブルーオーシャン」を紹介します。
質問
「日本の食べ物はサウジアラビアでも流行ると思いますか?」
回答
もし、5年前に同じ質問をされたとしたら「あまり期待できない」と回答していたと思いますが、今は「可能性は十分にある」と答えることができると思います。
【1,000km先でも行きたい和食店】
サウジアラビア西部の都市ジェッダに『FUJI』という和食店があります。
オープンは2019年で、私もたまたまプレオープン状態のときに訪れたことがあります。
その際に頂いたのは握り寿司でしたが、非常に本格的な味で驚いたことを覚えています。
天ぷらやすき焼きのほか、甘味には団子なども楽しめるお店になっています。
首都リヤドからジェッダは約1,000km離れているのですが、それでもこのお店を目当てに飛行機に乗って食べに来るお客さんがいるということですから、和食が「刺さる」層が一定数いるのだなと感じます。
https://instagram.com/fuji_saudi?igshid=YmMyMTA2M2Y=
(↑レストランFUJIのInstagram)
(↑メニューの一部。鰻が食べられるところは珍しい)
【国のモードが変わった】
サウジアラビアが現在のようにオープンになる前、サウジ人とビジネスの話をしているときによく言われたのが「日本食をサウジに持ち込むことにあまり積極的にならないでください」ということでした。
これには私も同意見でした。たしかに日本に招いたアラブ人たちも、食事については比較的保守的な人が多かったからです。
主な理由として味の好みの違いを挙げていましたが、日本食は豚やお酒など宗教的に相容れないものが使われることが珍しくないからというのも理由の一つでしょう。
しかし直近のアラブニュースによれば、サウジアラビアでは首都リヤドやジェッダを中心に日本食を提供するレストランが増えてきているとのこと。
味に対する嗜好というものはそう簡単に変わるわけではありませんので、何か他の理由がないと説明が付きません。
では何が変わったのか?
私見では、変わったのは国のモードです。
いわゆるサウジの開国によって、社会の変化に対して保守的姿勢から積極的姿勢へと変わったことが最大の理由ではないかと思います。
前回の記事で触れたとおり、サウジ文化省の定義では「文化とは生活の質を上げる要」ですから、食の分野でも文化交流を盛んにするために世界の食文化を国内に持ってこようとしていると考えられます。
日本食もその一つとして認識されているのではないでしょうか。
上述のレストラン『FUJI』は、2023年に首都リヤドにも新店舗をオープンするそうです。
来客が十分に見込めるということでしょう。
【日本食にとっても今は好機】
2021年のカフェ&レストラン分野の総売上高は、626億5千万サウジリヤル(約2.2兆円)と過去最高を記録しました。レストランの売上はコロナ前の2017年に比べて384%と、約4倍近く伸びています。(Foodex Saudiサイト内記事より)
驚くべき成長率ですが、コロナがなければもっと伸びていたかもしれません。
外食産業の規模が全体的に大きくなったので、その一部として日本食を提供するレストランも伸びているということだと思います。
これまで保守的なモードでは興味を示されることの少なかった海外の食。
日本食も例外ではありませんでしたが、ヘルシーな和食は他にはないアドバンテージを持っています。
モードが変わった今はチャンスです。
この記事を書いた人
大西 啓介(おおにし けいすけ)
大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。在学中はスペイン語専攻。
サウジアラビアやパキスタンといった、どちらかと言えばイスラム感の濃い地域への出張が多い。
ビビりながら中東ビジネスの世界に足を踏み入れるも、現地の人間と文化の面白さにすっかりやられてしまった。
海外進出を考える企業へは、現地コネクションを用いた一次情報の獲得・提供、および市場参入のアドバイスを行っている。
現在はおもに日本製品の輸出販売を行っているが、そろそろ輸入も本格的に始めたい。
写真はサウジアラビアのカフェにて。
【お知らせ】
ポッドキャスト始めました。
中東や東南アジアを中心に、海外の文化(ときどきビジネス)について喋る番組です。
番組名: Friday Airport Lounge
毎週金曜17時更新
https://anchor.fm/friday-airport-lounge