経営者のための映画講座 第25作目『未知との遭遇』

このコラムについて

経営者諸氏、近頃、映画を観ていますか?なになに、忙しくてそれどころじゃない?おやおや、それはいけませんね。ならば、おひとつ、コラムでも。挑戦と挫折、成功と失敗、希望と絶望、金とSEX、友情と裏切り…。映画のなかでいくたびも描かれ、ビジネスの世界にも通ずるテーマを取り上げてご紹介します。著者は、元経営者で、現在は芸術系専門学校にて映像クラスの講師をつとめる映画人。公開は、毎週木曜日21時。夜のひとときを、読むロードショーでお愉しみください。

『未知との遭遇』はそんなにうまく行くだろうか?

SF大作映画『未知との遭遇』が日本で公開されたのは1978年。盟友ルーカスの『スターウォーズ』が日本公開されてから約半年遅れだった。なぜ、この世代の若手監督が同じ時期にSFに手を出したのだろう。おそらく、純粋に彼らは玩具で遊ぶように映画で遊びたかったのではないかと思う。少し上の世代のように、映画で何かを物申すのではなく、自分が子どもの頃に見たエンタテイメントとしての映画を取り戻すためにスピルバークは映画を撮っていたのだと思う。『激突』で姿なき追跡者を描き、『ジョーズ』でパニックを描き、次はSFだ、と意気込む若きスピルバーグの顔を浮かんできそうだ。恐竜もの、冒険活劇ものと、これまでに彼が見続けてきたであろう映画群へのオマージュのような映画制作が続く。

個人的にスピルバーグの最高傑作は、この『未知との遭遇』だと思っているのだが、同時に彼の弱みを露呈したのもこの作品だと思う。限りなく性善説に乗っ取った甘いストーリー展開、『星に願いを』をラストに流してしまう幼児性など、そこかしこに後にアンチ・スピルバーグ派に突かれるポイントが全て顔を覗かせている。しかし、それこそがこの映画の魅力なのだ。

ストーリーはシンプル。世界各地でUFO目撃事件が頻発し、戦時中に消息を断った戦闘機や輸送船が砂漠などで姿を現し始める。政府はフランス人科学者のラコーム博士(フランソワ・トリュフォー)をトップに宇宙からの使者との対話を目論見、準備を始めている。一方、市井の人たちの中に、謎の造形をイメージしながらUFOに惹かれる者が現れ、それぞれがワイオミング州にある奇っ怪な山、デビルスタワーを目指すのだった。

主人公のロイ(リチャード・ドレイファス)は普通の生活を送る電気技師。彼もある日、UFOを目撃してから謎の造形に取り憑かれてしまう。不可解な行動ばかりとるロイと家族の関係は崩壊し、結局ロイは一人になってしまう。しかし、別れを告げる妻に対してロイはこう言うのだ。「頼むから待ってくれ。これには何か理由があるはずなんだ」と。つまり、いま自分が惹かれているわけのわからない造形にはきっと答がある。それを一緒に探してほしいと彼は懇願するのだ。しかし、そう言われて「はい、そうですか」と答える人はほとんどいない。

そりゃそうだろう。何しろ、説明がなさ過ぎるんだもの。と、書いてくると、なるほど家族にも企業にもやっぱり説明責任は必要なのだと痛感する。同時に、説明のつくことばかりやっていてすべてがうまく行くような世の中はつまらない、とも思う。映画のロイは誰にも理解されなくても自分の気持ちが命ずるままに走り続けることで未知の世界とコンタクトし、宇宙へ旅立つことができた。いや、もしかしたら理解など求めなかったからこそ、望みを果たしたのかもしれない。

さて、戦後民主主義の申し子のようなスピルバーグは『星に願いを』の一節をエンディングテーマに流しながらにこやかに映画に幕を下ろしたけれど、経営者のみなさんはどんな手腕を発揮するのだろうか。

著者について

植松 眞人(うえまつ まさと)
兵庫県生まれ。
大阪の映画学校で高林陽一、としおかたかおに師事。
宝塚、京都の撮影所で助監督を数年間。
25歳で広告の世界へ入り、広告制作会社勤務を経て、自ら広告・映像制作会社設立。25年以上に渡って経営に携わる。現在は母校ビジュアルアーツ専門学校で講師。映画監督、CMディレクターなど、多くの映像クリエーターを世に送り出す。
なら国際映画祭・学生部門『NARA-wave』選考委員。

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