第48回 庭づくりの「海外出張」、承ります!

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第48回 庭づくりの「海外出張」、承ります!

安田

今は日本の技術のある職人さんが、どんどん海外に出ていってますよね。先日も「銀座のすし職人さんがお店を1ヶ月閉めて海外に出稼ぎに行った」なんて話を聞きました。


中島

お店を閉めてまで行くのはすごいですね。その間も家賃は発生しているわけでしょう?

安田

そうなんです。逆に言えば、そうしてでも海外に行ったほうが儲かるってことなんですよね。円安によって、円で稼ぐよりも海外で稼いで日本円に換えた方がお金が増えるので。


中島

うーん、なるほど。そういうことなんでしょうね。

安田

海外で9ヶ月くらい働いて、そのお金で残りの3ヶ月を日本で贅沢に過ごす、みたいな生活が「一番豊かな暮らし」という感じになってきましたよね。


中島

昔は日本で稼いで、リタイアしてから海外でリッチな生活をするようなイメージがありましたけど。今は逆なんですね。

安田
そうらしいです。でも、前回もそんな話が出ていましたけど、庭師さんでもそうできる可能性は十分あると思うんですよ。知り合いとかで海外を主軸にされた方はいないんですか。

中島
うーん、どうでしょう。まだ僕の周りでは聞かないですね。
安田
でも実際、シンガポールやタイから「日本の3倍の金額を出して宿泊も食事も全部用意するから来てくれ」と言われたらどうします?

中島

ああ、それは行くかもしれないなぁ(笑)。

安田

そりゃそうですよね(笑)。しかも予算も潤沢で、自分が作りたいお庭を大きな規模で作れる。そう考えると、報酬だけじゃなくやりがいもありそうです。ますます受けない理由がなくなってきますよ。


中島
なるほどなぁ。確かに魅力的です。
安田

でもまぁ、それで日本の庭師さんがみな海外に行ってしまったら、「本当に素晴らしい日本庭園は海外にしかない」みたいなことにもなってしまいそうですね。それは困るなぁ(笑)。


中島

うーん、「さすがにそこまでは……」と思ってしまいますけど、日本の高級飲食店が海外からの観光客の方ばかりになっていることを考えると、あんまり楽観視もできないですよね。仮に日本に作ったとしても、入場料が高くて日本人は入れない、みたいなことになる可能性もゼロじゃない。

安田

そうですよね。実際ビジネスホテルは都内だと1泊5万円くらいになっちゃってるので、もう日本人は泊まれないわけですよ。出張や旅行で東京に行っても、埼玉や千葉のホテルに泊まったりするんです。


中島
うーん、ビジネスホテルで1泊5万円ですか…高級ホテル並みですね。
安田

ええ。そして当然高級ホテルはもっと高くなっていて、もともと5万円だったホテルなら今は倍の10万円くらいになってます。日本の高級志向のサービス業は、既に日本人を相手にしてないわけです。


中島

ははぁ、もう本当に手が出ない金額まで上がってるんですね。

安田

そうなんです。同様に、一戸建てを買える人も減ってきてるそうです。買えたとしても予算が限られているから、庭まで作っていられない。そうなると、中島さんの作りたいお庭もどんどん作れなくなっていくかもしれない。

中島

確かに、問屋さんの話を聞いていても、皆さん大変だと言っています。ここから盛り返すのは難しいかもしれません。

安田

そうですよね。そうなるともう海外の仕事が7割というのも、割と現実的な話なのかもしれない。実際、手に職さえあれば、言葉が片言でも十分仕事には就けるみたいですからね。

中島

なるほどなぁ。確かに僕らのような庭師の仕事は、接客業と違ってそこまでコミュニケーションが必要じゃないですからね。現場で手伝ってくれる人に指示が出せればいいわけで。

安田

先日も仰ってましたけど、通訳さえつければ問題なく仕事できちゃうってことですよね。それに向こうからしても、日本庭園を作れる職人が来てくれるのは嬉しいわけで。そういう意味でも、これから絶対に海外からの依頼が増えると思いますよ。

中島

そうなったらいいですね。先日の中国出張で、すごくいい経験ができたので、ぜひまたやりたいです。

安田

しかも、いいホテルに泊まれて、食事も込みで呼んでもらえるし(笑)。…でも世界的にはおそらくそれが普通だと思うんです。日本ではいかにコストをかけずに作らせるかを皆が考えてますけど、海外はそれよりクオリティを考えているというか。

中島

うーん、確かに。もちろんコストを考えることも重要ですけど、それ一辺倒になってしまうのは寂しいですよね。

安田

でも今の日本の状況では仕方ないのかもしれません。税金も社会保険料も上がって、物価もどんどん上がって…多少賃上げはされていても、実質の手取りは下がってますからね。

中島

そうですね。月1万くらい給料が上がっても、2万円出費が増えればマイナスですもんね。なかなか難しい状況だなと。

安田

それに加えて円安ですからね。これはもう、国力が戻らないことにはどうしようもないんでしょうけど、平均年齢が50歳の国と25歳の国ではエネルギーが全然違いますからね。日本をよそに、今後は東南アジアもどんどん豊かになっていくでしょう。

中島

そうなると、庭づくりもどんどん需要が高まるかもしれませんね。

安田

そうですよ。日本の文化は人気がありますし、日本庭園を作りたい人は世界中にいると思います。

中島

日本全国どこでも行きます」としてましたけど、これからは世界に広げていかないといけないなぁ(笑)。実際、東南アジアくらいまでなら全然行けますし。

安田

技術を持っている人は、きちんと評価をして大事にしてくれるところで働いた方が絶対にいいですよ。というか、美容師さんにしても、お寿司屋さんにしても、そして庭師さんにしても、そもそものお給料が安すぎるんですよ。海外なら簡単に年収1000万くらい稼げるような、価値ある技術なのに。

中島

なるほど。direct nagomiのホームページも今は日本語だけですけど、他の国の言語に切り替えられるようにしてもいいかもしれません。

安田

いいですね! 最低限、英語と中国語で作ってしまえば、それだけで依頼が来ると思いますよ。個人的には中島さんが海外でずっとお仕事されるようになったら寂しいですけど。日本だけにこだわらずにご活躍いただきたいですからね。

 


対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

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高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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