第64回 時代とともに進化する日本庭園

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第64回 時代とともに進化する日本庭園

安田

中島さんの作るお庭って、日本的なテイストは残しつつも「これぞ日本庭園!」という感じではないですよね。それは世の中のニーズに合わせているんですか?


中島

そうですね。庭に関してもかなり時代に影響を受けてます。昔は石灯籠があるような重厚感のあるデザインが好まれましたけど、現代の住宅の雰囲気には合わないことが多いので。

安田

なるほど。ちなみに今後はどうなっていくと思いますか?  皇居やお寺のような伝統的な場所を除いて、日本庭園的なスタイルは廃れていってしまうんでしょうか。


中島

一般的な住宅で日本庭園が作られることは、より少なくなっていくと思います。実際、今風のお家に石灯籠が立ち並ぶお庭って、やっぱりアンマッチですから。そういう庭が似合う伝統的な日本家屋を建てる人が減っているとも言えますけど。

安田

ああ、そうですよね。つまり庭の変化は家の変化でもあると。でもそうなると、日本家屋を建てられる大工さんも減っていっちゃうんじゃないですか?


中島

実際どんどん少なくなってますよ。とはいえ、日本家屋や日本庭園のスタイルが全く消えてしまうわけではなく、少しずつ形を変えて残っていくんだと思うんです。実際僕が作っているお庭も、自然石と樹木を使った「今の建物に合った日本庭園風」のお庭なので。

安田

なるほど! つまり「日本庭園の進化系」ということですよね。ファッションも時代によって変化していくように、お家やお庭のスタイルも変わっていくと。まあ現実的に考えて、この時代にかやぶき屋根の家に住むわけにもいかないですしね(笑)。


中島

ええ(笑)。生活が変化するのに併せて、家や庭が変わっていくのは当然だと思います。そういえば安田さんが以前ポッドキャストで「伝統と惰性の境目」についてお話されていたのを聞いて、「日本庭園」は果たして伝統なのか、それとも惰性なのかと考えてしまいました。

安田

ああ、そんな話もしてましたね。時代に合わせて進化し続けるものが「伝統」で、何も考えずにただ続けているものが「惰性」だ、という話でしたよね。


中島

そうですそうです。それでいうと、日本庭園はとても素晴らしいものではあるんですが、十分な進化を遂げているんだろうかと考えると、疑問点がないわけではない。この令和の時代にあった「日本庭園」は、まだ完成されていないのではないかと。

安田

なるほど。だからこそ中島さんは「進化した日本庭園」を常に模索されているわけですね。いや、素晴らしいです。でもそれでいうと、海外ではまたちょっと状況が違いませんか。わざわざ日本の庭師を呼んで、日本庭園を作らせる人が増えているって仰ってましたよね。


中島

仰る通り、あれはあれで日本庭園の進化の一つの形ですよね。海外ではむしろ昔ながらのスタイルがウケている。国内とは違った受け止められ方をされているのは面白いですよね。

安田

実際中島さんも、中国で日本庭園を作られたと仰ってましたもんね。でもあのプロジェクトは、日本家屋に日本庭園を合わせたわけではなかったと記憶しています。


中島

ええ。周りが高層マンションに囲まれているエリアに日本庭園を作ったんです。そういう意味ではすごく不思議な印象でしたね。彼らの感覚だと「日本庭園自体」の雰囲気が重要なのであって、建物との調和はあんまり気にならないみたいです(笑)。

安田

なるほど(笑)。でもこの風潮がさらに広がれば、昔ながらの日本庭園を見るには海外に行かなきゃならない、なんて時代になっちゃいそうです。


中島

それはあり得るかもしれません。海外では今「禅の庭」がすごく注目されてるんです。不要なものを置かない、「引き算の美学」が好まれていて。そうやって海外ではどんどん日本庭園が進化しているのに、国内ではどんどん需要が減っている。個人的にはちょっと寂しく感じますけどね。

安田

とはいえ、中国には中国の伝統的な庭のスタイルがあるわけでしょう? 要は「中国庭園」のようなものが。


中島

もちろんありますね。日本庭園とはまた雰囲気が違っていて、全体的にすごく手が込んでいます。石を重ねてそこから水が流れていたり、凝った作りのものが多いです。

安田

へぇ。つまりけっこう「人工的」なんですね。日本庭園の自然な美しさとは確かに違うアプローチだ。それにしても、それぞれの文化が庭にも反映されているようでおもしろいです。

中島

日本庭園が「自然そのもの」を感じさせることを重視しているとすると、中国庭園は「人の手による自然の表現」を追求している感じです。

安田

なるほどなるほど。ともあれ、日本庭園にも変化や進化が必要な時期に来ているということなんでしょうね。

中島

そうですね。伝統を守ることも大事ですが、時代に合った庭を作っていくことも重要だと感じています。私としては、今まで同様に自然との調和を重視した、かつ今の時代にもマッチする日本庭園を追い求めていきたいなぁと。

安田

まさに「進化する日本庭園」ですね。中島さんの手で日本庭園がどんな風に新しい形を見せていくのか、これからも楽しみです。

 

 


対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

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高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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