庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。
第65回 金木犀の「香り」による生存戦略
秋になると、そこかしこで金木犀の香りがしてきますよね。そこで初めて「ああ、そんな季節か…」と気づくことも多くて。あの香りと季節がすごく結びついている感じがするんです。
金木犀は秋に一度だけ強い香りを放って花を咲かせるんです。毎年その時期だけだからこそ、より秋らしさを感じさせるんでしょうね。
そういえば実家にも金木犀があって、あの香りが秋の風物詩みたいなものでした。金木犀好きの日本人は多いでしょうし、お客さんから「香りが好きだから植えてほしい」というような要望があったりするんじゃないですか?
うーん、最近はそこまで多くはないですね。特に雑木のお庭ブームになってからは、雑木っぽい風情が出にくいので、どちらかと言えば敬遠されるようになってきています。樹形自体もそこまで特徴的なものではないですし。
へぇ、そうなんですね。でも言われてみると、確かに花が咲くまではあまり目立たない気がします。花が咲いて初めて「これ金木犀だったのか」と気づくというか(笑)。
そうそう(笑)。あとは手入れもけっこう手間がかかるんです。葉が茂りやすくて、ボサボサになりやすいので。まぁ、葉の密度が高い分、目隠しとして使うにはよかったりするんですけどね。
なるほどなぁ。ちなみにけっこう大きくなるんですか?
放っておくと6メートルくらいになることもあります。
そんなに! 街なかで見かける分にはそんな印象はありませんでしたけど、ちゃんと手入れをしてたってことなんですかね。
そうだと思います。ちょうどいい大きさを保つには、こまめに剪定する必要があるので。
お庭に植えるなら、プロの手を借りる前提で考えた方がよさそうですね。お庭の中に6メートルの大木があったら困りますから(笑)。
そうですね(笑)。さらに言うと、それだけ大きいと香りもかなり強くなってしまいます。その調整のためにも、ある程度のサイズで整えるようにした方がいいと思いますね。
へぇ、大きすぎると香りも強くなるんですか。でもそうか、単純に花の数が増えるんですもんね。
そうなんです。実はdirect nagomiの事務所にも、祖父が植えた大きな金木犀の木があるんですが、それが大きく育ちすぎてしまっていて。幼い頃、毎日の登下校でその下を通るんですが、満開になるとむせかえるほどの香りで、さすがにちょっと苦手でした(笑)。
へぇ、そんなに強烈だったんですね。よっぽど大きかったんだろうなぁ。
ええ。それに虫もすごくて。金木犀の大木から、芋虫がたくさん垂れ下がってくるんです。幼少期の僕にとっては、残念ながらあまりいい印象ではなかったですね(笑)。
虫のイメージと香りが結びついちゃったのかもしれませんね(笑)。
そうかもしれません(笑)。もっとも、今では自分の好みの大きさに整えられるようになったので、香りを楽しむことができるようになりましたけど。
それはよかったです(笑)。確かにフワッと漂う分にはいいですけど、強すぎると芳香剤のように感じてしまいそうですね。
そうなんです。強すぎる香りも風情がないので、やはりバランスが大事ですね。
でも逆に言えば、山の中に自生しているようなものだと、それくらい大きい木も珍しくないってことですか? 誰も剪定してくれないわけだから、伸び放題なわけでしょう?
いえ、山の中で金木犀は見たことがないですね。おそらく人の手で植えられたものが広がっていったんじゃないかと。
へえ〜、そうなんですか。なんだかトウモロコシみたいですね。トウモロコシって硬い皮に覆われていて、すごく繁殖しにくい形らしいんです。でも人間が世界中で育てることで、「地球上で最も繁栄した植物」と言われるまでに広まったらしいですよ。
そう考えるとおもしろいですね。金木犀についても、あの香りを人が好んだからこそ、たくさん植えられるようになったんでしょうし。
そういう意味では金木犀の「香り戦略」と言ってもいいかもしれないですよね(笑)。
本当ですね(笑)。僕もお庭を作るときに「香り」で植える木を選ぶことがあるので、まんまと戦略に乗せられたということになるかもしれない(笑)。
笑。とはいえ、もともと中島さんのお庭は季節の変化を大事にされてますもんね。ちなみに「香り」を切り口に選ぶとしたら、どんな木がおすすめですか?
やっぱり春先に花が咲くものが多いんですが、例えば沈丁花(ジンチョウゲ)は甘くいい香りがします。低木で、伸びても1.2メートルくらいなので、比較的扱いやすいと思いますよ。
へぇ、でもその名前は聞いたことがないです。金木犀ほどメジャーじゃないんですかね。
そうですね。そもそも金木犀の印象が強いのは、秋に香る花を咲かせる木が珍しいんですよ。だからこそ人の記憶に残りやすい。
ああ、なるほど。それも差別化を図るという、金木犀の「戦略」の一つということですね(笑)。
対談している二人
中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役
高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。