第69回 「余裕」が先か「庭」が先か

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第69回 「余裕」が先か「庭」が先か

安田

今日は中島さんに「お庭とは何ぞや?」ということをあらためて聞いてみたくて。家を持つ日本人にとって、庭とはいったいどのような存在だと思いますか?


中島

「癒しの空間」だと思いますね。その上で、家と外とをつなぐ役割も持っているというか。

安田

なるほど。家から一歩出たら外、ではなく、その間にある空間ということですね。集落と山の間にある「里山」のようなイメージでしょうか。


中島

ええ、まさにそんな感じです。家と外の間にお庭を作ることで、「レースカーテンを閉めずに生活できる環境」を提供できればと考えています。

安田

ほう、つまりお庭がレースカーテンの役割を果たすということですか。でもお庭があっても、日中はレースカーテンを閉めて過ごすお家も多いように思いますが。日差しもあるでしょうし。


中島

南向きの窓の場合も、タープのようなもので日よけをすればかなり直射日光は避けられますので、カーテンを閉めなくてもすみます。そうすることで、家と庭を「つながった空間」として楽しんでいただけるかと。

安田

なるほど。確かに四六時中カーテンを閉めなくていいとなれば、開放感もあるし気持ちがいいでしょうね。あ、でも外から丸見えになっちゃうのは困るなぁ。


中島

それも実は庭の機能のひとつなんです。目隠しになるような木を植えることで、外から隔たったプライベートな空間を作れます。

安田

ああ、なるほど。中島さんお得意の「計算された適度な目隠し」ですね。やっぱり中島さんとしては、カーテンなどはできるだけしてほしくないわけですか。


中島

もちろん様々な状況があるでしょうから、そこまでは求めませんけどね。ただ、常に締め切ったような状態だと、せっかく庭を作った意味がなくなってしまうので。

安田

確かにそうですよね。それじゃもったいない。


中島

ええ。だからこそ「家の一部」として、中から眺められるようなお庭を提案させていただいています。

安田

なるほどなぁ。私も考えてみたんですが、お庭って現代人にとっての「心の余裕」そのものなんじゃないかと思うんです。精神的にも金銭的にも余裕がなければ、そもそもお庭を作ろうなんて考えないわけで。


中島

確かにそうですね。実際、最近の資材や人件費の高騰で、僕の住んでいる岐阜でも戸建ての値段が上がっていて、ローンが通らない人がものすごく増えているみたいです。

安田

そうするとやっぱり「お庭がある=心にもお金にも余裕がある」ということになりますよね。人って余裕がなくなると必要最低限のもの以外は削ってしまいますからね。そうしてどんどん効率化に向かっていく。


中島

それでいうと、direct nagomiにご依頼いただくのは「自然を感じたい」というお客様が多かったんですが、最近は機能面を重視される方も増えてきた印象があります。

安田

ふ〜む、中島さんに依頼するお客さんでそうなら、マーケット全体で見ればもっと顕著なんでしょうね。コンクリートをただ敷いただけのお庭とかが主流になったりして。


中島

うーん、個人的にはちょっと寂しいですね。

安田

同感です。手間を省いたり無駄をなくそうとすることが、結果的に「日本という国の付加価値」を下げてしまっている気さえするんです。

中島

ははぁ、なるほど。確かに日本建築はそういう部分も大切にしてきた気がします。

安田

そうなんですよ。日本のお庭や昔ながらの日本建築って、インバウンドで来られる方にすごく人気があるでしょう? あれはつまり効率重視ではない、一見無駄とも思えるようなものの中に魅力がある、ということだと思うんですよね。

中島

確かに。そう考えると、「おもてなし」の文化も一緒ですよね。日本でお店に入ると、おしぼりやお水が当たり前のように無料で出てきますけど、海外ではそうはいかない。

安田

そうそう。日本人は昔からそういう「効率的でない部分」を大事にしてきたわけです。そこをなくしてしまって、効率を追い求めるほどに感性が衰えてしまうというか。無機質な家では新しいアイデアも思いつかない気がして。

中島

わかります。日々の生活の中でアイデアにつながるヒントを得るには、心の余裕が必要ですからね。お庭を通じて、そういう心の余裕を持っていただけると嬉しいなぁ。それでいうと僕の家の庭も、最近少し手間のかかるものに変えたところなんです。

安田

へぇ、そうなんですね。ちなみにどこを変えたんですか?

中島

今までは草むしりがいらないお庭だったんですが、一部苔の場所を作ったんです。手入れも楽しめたらいいなと思って。木や下草で緑の部分は作れますけど、地面がグリーンなのはまた雰囲気が違っていいなと感じています。

安田

なるほど~。「苔を美しい」と思う感性ってすごく大事ですよね。花が咲くわけでもなければ香りがするわけでもない、わかりやすい華やかさはないけど、「なんかいいよね」という感覚。

中島

すごくわかります。心が和む雰囲気がありますよね。

安田

そうそう。昔の日本人は、誰もがそこに魅力を見出していたわけです。これから日本がまた元気になっていくには、そういう感覚を取り戻すことが必要なのかもしれませんね。


対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

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高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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