第71回 街の景観を守るために全員が持つべき美意識

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第71回 街の景観を守るために全員が持つべき美意識

安田

最近は人手不足もあって、シルバー人材の方々が街路樹の剪定をすることも多いらしいですね。そのための技術を教えるスクールのようなものがあるんですか?


中島

ああ、市役所で講習が開かれていて、「街路樹はこの長さでカットしてください」といった基本的な内容を教えているようですね。ただ正直、「それは出っ張ったところをただ切っているだけだよね」と感じてしまうことも多くて。

安田

ああ〜なるほど。中島さんのようなプロの視点からすると、それは剪定ではなく単なるカットだと。


中島

そうそう。もちろん人手不足の状況は理解していますし、シルバー人材がそうやって社会活動に参加できる状況も素晴らしいと思います。ただ、「落葉後の木をもっと美しく整えた方が冬の街並みも映えるのになぁ」なんて考えてしまって(笑)。

安田

プロの宿命ですね(笑)。でも実際、街路樹の本来の目的を考えると、もっと美意識を持って管理すべきですよね。四季を感じたり、心を落ち着けたりするためにあるものなわけですし。効率だけを重視するなら、そもそも街路樹は必要ないだろうっていう。


中島

ええ。もっとも、当たり前にありすぎて、皆さんそういう感覚が薄れてしまっているんだと思います。そういう意味では、街路樹をキレイに保つこと以前に、美意識や景観を楽しむ心を育てることが大事だと思います。

安田

本当に仰る通りだと思います。そういうシルバー人材の方々にも、美意識や価値観を教える機会があればいいのに。中島さんのところにそういう依頼は来ないんですか?


中島

いや、残念ながら、そういったご依頼はないですね(笑)。

安田

そうですか(笑)。でも中島さんも以前仰っていた「掃除すべき落ち葉と放置する落ち葉の違い」を学ぶだけでも、価値観が変わると思うんですけどね。


中島

確かに確かに。そういう知識を持った上で臨むことで、やみくもにカットするのではなく、景観を意識した切り方ができるようになっていく気がします。

安田

私もあの話を聞いて「落ち葉=汚い」じゃないんだな、とハッとしましたから。実際、イチョウの葉が地面に散っている景色なんて、辺り一面が黄金色ですごくきれいですもんね。


中島

そうなんですよ。木の管理も、ただ「邪魔だから切る」のではなく、景色を整えるという視点が大切で。

安田

なるほどなぁ。そういう観点で言えば、「邪魔にならないように切る」って、そもそも「街路樹が邪魔なもの」という前提の言葉のようにも感じますね。


中島

ただ現実的に、人間の生活の邪魔になってしまうのも問題で。邪魔になるように成長してしまうのは、そもそも植えられた木がその場所にあっていない場合もあるんですよ。

安田

へぇ〜、なるほど。植樹の段階からの問題だということですね。それを担当した人には美意識やセンスが足りなかったのかもしれません。


中島

もちろんいろいろ事情があるとは思うんですけどね。でも街の景観を大事にしてくれる人がリーダーになってくれたらすごくいいなぁと思うんです。

安田

そういう人は、なかなか選挙で勝てないんじゃないですかね(笑)。「街の景観を良くします!」より「税金を減らします!」の方がウケる世の中ですから。


中島

うーん、そうかもしれませんね(笑)。悩ましいです。

安田

極論ですが、「邪魔だから切る」という発想なら、最初から木を植えなければいいのにと思ってしまいます。それくらい「木を植える」という行為は、美意識とセットであるべきで。

中島

確かに仰るとおりだと思います。それが欠けてしまうと、ただの作業になってしまう。

安田

そうそう。シルバー人材の人たちも、単なる作業ではなく、美意識を持つことで新しい道も開けるはずなんです。隣県からも依頼が来たり、より稼げるようになったりする可能性だってあるわけで。

中島

ああ、そうですよね。もっとも、彼らが美意識を持って剪定したくても、依頼内容が「とにかくすっきりさせてほしい」というものになっているのかもしれません。そう言われてしまうと、なかなか難しいのかなと。

安田

ああ、なるほど。そう考えると、剪定を依頼する側にも美意識が求められるわけですね。でも、こんなことを言ってなんですが、お庭づくりやエクステリアの看板を掲げて商売をしている会社の中にも、そういう感性を持たずに仕事をしているところがある気がします。

中島

確かに、単純に「作業」として請け負っているところはありますね。残念ながら。

安田

ですよねぇ。そういう意味では発注側も、ただ安いところを選ぶのではなく、価値を見極める目を持つ必要があるんでしょうけど。

中島

そうですね。作って終わりではなく、「住み続けるうちにどんどん美しくなっていくようなお庭」を作れる会社が増えてほしいなと思います。


対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

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高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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