第82回 中島流「借景の露天風呂」

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第82回 中島流「借景の露天風呂」

安田

お庭にを作られたりしている中島さんですが、いつか「温泉を作りたい」という夢があるそうですね。


中島

そうなんです。個人的にも温泉が好きでよく行くんですけど、露天の岩風呂に入るたびに「このきれいな自然をもっと活かせたら…」と思ってしまって。もう職業病ですね(笑)。

安田

なるほど(笑)。ということは、今の露天風呂は自然を活かしきれていないんですか?


中島

ああ、いえいえ、そんなことはないんですけどね。実際、温泉自体は素晴らしいものが多いですよ。ただ職業柄、「周りの景色との繋がり」みたいなマニアックなところばかり見てしまって(笑)。

安田

ははぁ、さすがですね(笑)。確かに遠くの景色はきれいでも、近くを見ると現実に引き戻されてしまうことも多いですもんね。周りの海や山とお風呂周りがつながっていれば、さらに素敵な空間になるだろうと。


中島

そういうことです。たとえば石の並べ方なども、僕なんかは自然風に無造作に作りたいんです。あまりきちんと並べられすぎていると、まるで花壇の中にお風呂があるような感じになってしまうので。

安田

ああ〜、確かに。でも、山の中で猿が入っているような天然の岩風呂では自然すぎませんか(笑)。


中島

そうですね(笑)。そのあたりのバランス感は重要ですし、そもそも安全性も考慮する必要がありますから、あまり凹凸があってはいけません。そのあたりの塩梅ですよね。

安田

そうかそうか。例えば人が通る部分は安全に整えつつ、その他はもう少し自然な雰囲気に近づける、みたいな調整が必要なわけですね。とはいえ、泉質の影響で植栽が難しい場合もありませんか?


中島

お風呂から少し離れれば、そこまでの影響は受けずにすみます。塀などを利用する方法もありますしね。

安田

ふ〜む、でも塀があることで借景が途切れてしまうことはないんですか?


中島

塀の高さを調節して、視線の位置で景色がつながるようにすれば、むしろより味わい深い庭になったりもしますよ。もちろん塀のデザインや素材なんかも重要なんですけどね。

安田

なるほどなぁ。あらためて考えてみると、遠くの景色を売りにする温泉はよくありますけど、借景を取り入れてる温泉ってあまり見かけないですよね。ちなみに湯舟自体はどういう造りがおすすめですか?


中島

景色がしっかり整えられてさえいれば、湯舟は檜風呂でもいいと思います。その周りに石を敷けば、歩きやすさと同時に自然なつながりも作りやすいでしょうし。

安田

なるほど、いいですね。でも現状では、あくまでお風呂が主役で、景色は遠くを眺めて楽しむだけ、という作りが多いように感じます。お風呂の周りまで作り込まれているところはほとんど見かけない。コスト面の問題もあるのかもしれませんけど、ちょっともったいないですよね。


中島

そうですね。庭についても意識を向けてくださると、より素敵なお風呂に仕上がると思います。そこまでコストをかけなくても、景観を少し整えるだけで雰囲気は大きく変わりますし。

安田

そうでしょうねぇ。こちらを見た旅館やホテルの皆さん、興味があればぜひ中島さんにお問い合わせしてみてください!

 

 


対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

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高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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