「オモシロイを追求するブランディング会社」トゥモローゲート株式会社代表の西崎康平と、株式会社ワイキューブの代表として一世を風靡し、現在は株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表および境目研究家として活動する安田佳生の連載対談。個性派の2人が「めちゃくちゃに見える戦略の裏側」を語ります。
第12回 新卒採用1年目で7000エントリーを集めた手法
今回はあらためて「ブラックな企業」についてお聞きしたいなと。まずこの「ブラックな企業」というワードはいつ思いついたんですか?
対外的に「ブラックな企業」って言い始めたのは2014年ですね。設立4年目くらい。
それはどういうキッカケで?
初めての新卒採用をするタイミングで。当時は企業ブランディングより採用ブランディングの会社だったので、わかるわけですよ。「ウチみたいな社員3人の小さな会社なんて、誰も注目してくれんだろう」と。
ああ、なるほど。普通のやり方をしても採用市場で目立たないと。
ええ。どうやったら興味を持ってもらえるかな、と皆で考えて出したキャッチコピーが「ようこそ、ブラックな企業へ」だったんです。
なるほど。最初は新卒採用のキャッチコピーだったんですね。
そういうことです。とはいえ、創業時から会社のコーポレートカラーは黒だったんです。オフィスも真っ黒でしたし、会社のパンフレットとかのツールも全部黒で統一していて。
つまり、「ブラック」の要素はもともとあったということですね。ちなみになんで黒なんですか?
そうですね。創業した時に「コーポレートカラーどうしようかな」と考えて。赤だったら情熱的、青だったらクールなイメージ、みたいなのあるじゃないですか。
ああ、ありますよね。
でもなんかどれもしっくりこない。というのも、最初のモチベーションが「変な会社を作りたい」だったので、個性的な仲間をたくさん集めたかったんです。
ははぁ。つまり、赤だけとか青だけじゃなく、様々なカラーの人が集まる会社にしたいと。
まさに仰るとおりで。いろんなカラーの人が集まって、それが絵の具みたいにぐちゃぐちゃに混ざったら、最終的に黒くなるよなと。それくらい個性が入り混じった会社にしたいと思って、黒を選んだんです。
なるほどなぁ。それで採用キャッチコピーとして世の中に出した。とはいえ、それは今お話してくれたような意図じゃなく、いわゆる「ブラック企業」のミスリーディングを狙ったわけでしょう?
もちろんそうです。皆が敬遠する「ブラック企業」を逆手に取って、「うちはブラックな企業ですよ」とPRしたわけです。これならきっと注目が集まるだろうと。
「ブラック企業」じゃなく「ブラック“な”企業」というところがミソですね。ちなみに結果はどうだったんですか?
すごかったですよ。僕ら会社を始めて14年経ちますが、その年が一番エントリー数多かったですから。
何人くらいですか?
7000人ちょっとですかね。
7000人! は~、すごいですね。
「ブラックな企業」で採用サイトも作ってたんですが、GoogleとかYahooで「ブラック企業」って検索すると、うちの採用サイトが1番上に表示されたりして(笑)。
ははぁ、なるほど。それは意図してなかったんですか?
いえ、狙ってました(笑)。「ブラック企業」で検索する子たちも引っ張ってこようと。
さすがです(笑)。ちなみにどんな内容のサイトだったんですか? ブラックな企業と言いつつ、ホワイト企業っぽく見せてたんですか?
いえ、ちゃんとブラック企業っぽくしてましたね(笑)。「終電ギリギリまでの仕事」とか「辞められない会社」とか書いて。でもそれぞれの項目に「真相を見る」ってボタンがあるんですよ。
ほう、それを押すと?
真相が見れるわけです。たとえば「終電ギリギリ」っていうのも、僕らそもそも勤務時間決めていなかったので、早く来て早く帰る子もいれば、遅く来て終電までやってく子もいる、という。
なるほど(笑)。「辞められない会社」というのは?
当時まだ3人しかいなくて、まだ辞めた人が1人もいなかっただけで(笑)。そういうのを大げさに書いていただけという。
ははぁ、なるほどね。ちなみに7000人エントリーがあって、何名採用したんですか?
初年度は1人だけですね。
1人! さぞ優秀な方なんでしょうね。
はい、すごかったですね。すごく優秀な女の子で、5~6年は一緒に頑張ってくれました。
へぇ~。その頃はでも、今みたいなすごいオフィスじゃないですよね(笑)。
全然。4~5坪くらいの、数人入ったらいっぱいみたいな狭いオフィスで(笑)。
ちなみに「ブラックな企業」というのを、マーケティング的にも使い始めたのはいつなんですか?
その採用手法がけっこう話題になったんですよね。「おもしろい採用をやっている会社10選」みたいにWebメディアに特集されたり、新聞記事にもなって。そういうこともあって、「ブラックな企業って、自分たちを伝えるのにすごくいいかもしれない」と。
それで使うようになったわけですね。でもそういう話題性のある切り口って、目立ちやすい一方でアンチも増えませんか。
ああ、アンチコメントとかはありましたね。「ブラック企業の社長が偉そうに発信しやがって」みたいなこともよく言われました。
ああ、「ブラックな企業」じゃなく、「ブラック企業」だと勘違いされて。
そうそう。とはいえ、そういうケースはそう多くなく、どちらかといえば好意的な意見の方が多くて。
社員さんには反対されなかったんですか? 「そんな出し方したら叩かれちゃいますよ」みたいな。
それは全然なかったですね。むしろ「いいね!」って感じでした。当時は本当に小さな会社だったので、失うものもなかったですし(笑)。
ああ、なるほど。確かに大きい会社ほどやれない手法かもしれない。ちなみに今のクライアントさんにも、そういうちょっとギリギリの提案をしたりするんですか?
多いですね(笑)。
やっぱり(笑)。でもそれ、すんなり受け入れてくれます? それこそ「炎上するんじゃ…」と尻込みする社長もいそうですけど。
それを受け入れてくれる会社と取引をするって感じですね。
へぇ! でもそうやって提案して、本当に炎上しちゃったら大変じゃないですか。「お前のせいでこうなったんだ!」なんて責められるかもしれない。
それでいうと、提案にはちゃんと「芯」があるので、大丈夫です。芯になる想いがまずあって、それを打ち出しているだけなので。そういう意味での不安や心配は全然ないですね。何言われても堂々と説明できる自信があるので。
ははぁ、なるほど。だから胸を張って提案できるわけですね。さすがです。
対談している二人
西崎康平(にしざき こうへい)
トゥモローゲート株式会社 代表取締役 最高経営責任者
1982年4月2日生まれ 福岡県出身。2005年 新卒で人材コンサルティング会社に入社し関西圏約500社の採用戦略を携わる。入社2年目25歳で大阪支社長、入社3年目26歳で執行役員に就任。その後2010年にトゥモローゲート株式会社を設立。企業理念を再設計しビジョンに向かう組織づくりをコンサルティングとデザインで提案する企業ブランディングにより、外見だけではなく中身からオモシロイ会社づくりを支援。2024年現在、X(Twitter)フォロワー数11万人・YouTubeチャンネル登録者数18万人とSNSでの発信も積極的に展開している。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。