第23回 「ブラックな社長」の、堅実な経営術

この対談について

「オモシロイを追求するブランディング会社」トゥモローゲート株式会社代表の西崎康平と、株式会社ワイキューブの代表として一世を風靡し、現在は株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表および境目研究家として活動する安田佳生の連載対談。個性派の2人が「めちゃくちゃに見える戦略の裏側」を語ります。

第23回 「ブラックな社長」の、堅実な経営術

安田

今回は「借金」について聞いてみたくて。というのも、以前どこかでトゥモローゲートさんは無借金経営をしている、って話を聞いた気がして。


西崎

ああ、なるほど。確かに事業をやるにあたって資金調達をしたことはないんです。でも、オフィス移転のときは普通に借り入れしてますよ。

安田

ああ、なるほど。確かにオフィス周りはお金がかかりますからねぇ。ちなみにいくら借りたんです?


西崎

50006000万円くらいですね。

安田

へえ! でもそれ初めての借り入れですよね。よくそんなに借りれましたね。


西崎

そうですよねぇ。運が良かったんだと思います。

安田

いやいや、それだけ評価が高かったってことですよ。ちなみに今回のオフィス増床の際も借り入れを?


西崎

あ、今回は借りてないんです。現金で全部作っちゃいました。

安田

へぇ! すごいですね。よくそんなにキャッシュがありましたね。


西崎

採用ブランディングから企業ブランディングにシフトしたことで、かなり収益性が上がりまして。それで企業としてもかなり余裕ができたんです。今回も「借り入れどうする?」って話は出たんですけど、まぁ現金あるしわざわざ借りなくてもいいだろうと。

安田

でもかなり費用がかかったって仰ってませんでした? 1億近いとか。


西崎

実質8400万かかりましたね。ただ、オフィスをショールーム化することで、2000万円分くらいの家具を提供してもらっているんですよ。ですので、実際に支払った現金で言うと6500万ぐらいです。

安田

なるほど~。ただ、それでも6500万円ですよ。それだけのキャッシュが会社からなくなるってけっこうなことですけどね。西崎さんは借金があんまり好きじゃないんですか?


西崎

うーん、嫌いというわけでもないんですけど、使い道があんまりわかんないっていうか(笑)。

安田

「使い道がないときには借りない」っていうタイプですか。


西崎

借りない!って決めているわけでもないですけど、お金があるなら借りなくてもいいか、くらいの(笑)。

安田

なるほどなぁ。まぁ私は銀行から借りすぎて会社潰しちゃった人なんで偉そうなことは言えないんですけど、銀行は「借りたいときには貸してくれない」っていうイメージで。


西崎

そういうものですか?

安田

借りたい時っていうのは会社にお金がないときなんです。つまり業績が悪かったり、内部留保が減ってしまっている場合が多い。そういう状態の会社に銀行はお金を貸したくないわけです。


西崎

ああ、なるほど。回収できないかもしれないから。

安田

そうそう。一方で、ガンガン儲かってものすごくお金がある会社には、向こうから「借りませんか?」とやってくる。つまり、今のトゥモローゲートさんみたいにお金がある時にガッツリ借りておく。お金がなくなることを見越して借りておくんです。それが当たり前の戦略だと思っていたんですけど、西崎さんはちょっと違いそうですね。


西崎

なるほど~。うーん、単純に僕はそういう知識に疎いんだと思いますね。お金の使い方をあんまり知らないというか。ただ、そういう状態でも特に困ったことがなくて。お金さえあったらこれできたのに、みたいなことがないんです。

安田

うーん、それはすごいことですよ。とはいえね、たとえばリーマン・ショックみたいなことが起こるかもしれない。トゥモローゲートさんに原因がなくても、どうしようもない外的要因で、売上がガクッと下がっちゃうことはあると思うんです。そういうときはどんな手を打ちますか。


西崎

リアルな話をすると、仮に売上が今の半分になったとしても、会社自体は2年はもちます。ですので、その2年でものすごく考えるでしょうね。どうすれば売上をもとに戻せるかを。

安田

なるほど。ちなみにそういうとき、一般的な会社は社員を減らしたり給与を落としたりしますね。つまり人に切り込まざるを得ない。「誰にも辞めてほしくない」西崎さんとしては、非常に辛い選択になりますよね。


西崎

そうですね。辛いですね。

安田

できるだけ人は切らない?


西崎

ええ、それはやっぱり最期の選択ですね、僕にとっては。同じく給与も下げたくない。逆に言えば、そうしなくていいようにここまで蓄えてきた、という。

安田

なるほど。でもそれは正解だと思います。リーマン・ショックのときもね、社員を辞めさせてしのいだ会社って、その後なかなか復活できなかったですから。一方、社員を切らずに頑張った会社は、マーケットが回復してきたときに一気に他社のシェアを取っていった。


西崎

わかります。それは志という意味だけじゃなく、一度人材を減らしちゃうと、いざ増やそうと思った時にすごくコストがかかるということでもありますよね。実際、いまウチに集まっている優秀な人材をもう一度採用しろと言われたら、すごく大変ですから。

安田

仰るとおりですね。ちなみにそれだけ資金の蓄えがあるってことは、税金もけっこう払ってこられたんじゃ?


西崎

払ってますよ~。もうびっくりしますよね。こんなに払わなきゃいけないんだみたいな(笑)。

安田

税金で払うくらいならなにか買っておこう、って考える社長も多いですけど、そうはならなかった?


西崎

昔はそういう考えでしたけど、今は変わりましたね。うちの顧問会計事務所から「税金を収めてでもしっかり利益を残せ」ということをかなり徹底して言われてまして。

安田

なるほどね。でもそれが一番だと思いますよ。資金繰りもしやすいし。


西崎

ええ。僕もそう思ってます。

安田

それにしても、話せば話すほど西崎さんって堅実な方ですよねぇ。


西崎

そうなんですよ(笑)。意外と堅実なんです。

安田

オフィスとか見てると、とても堅実な人がやる戦略には見えないんですけどね(笑)。でも経営自体はすごく堅実。おもしろいなぁ。

 

 


対談している二人

西崎康平(にしざき こうへい)
トゥモローゲート株式会社
代表取締役 最高経営責任者

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1982年4月2日生まれ 福岡県出身。2005年 新卒で人材コンサルティング会社に入社し関西圏約500社の採用戦略を携わる。入社2年目25歳で大阪支社長、入社3年目26歳で執行役員に就任。その後2010年にトゥモローゲート株式会社を設立。企業理念を再設計しビジョンに向かう組織づくりをコンサルティングとデザインで提案する企業ブランディングにより、外見だけではなく中身からオモシロイ会社づくりを支援。2024年現在、X(Twitter)フォロワー数11万人・YouTubeチャンネル登録者数18万人とSNSでの発信も積極的に展開している。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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