適正サイズ

社員数をどんどん増やし、売上高もどんどん拡大したい。
そういう野心が経営者にはある。
売上高2億円よりも3億円、3億円よりも5億円、
5億円よりも10億円。
社員数も、5人よりも10人、10人よりも30人、
30人よりも100人、という具合に。

売上高10億円、社員数100人、
それは中小企業の社長にとって、
ひとつの分かりやすい勲章なのである。
売上高が10億円を超えている会社の社長、
3ケタの社員数を抱えている会社の社長、
それは社長同士の集まりでも一目置かれる存在なのだ。

では実力的にはどうなのか。
確かに、売上高3000万円の経営者と10億円の経営者では、
実力に大きな差があるだろう。
だが9億9000万円の経営者と10億円の経営者の間に、
実力差などあるはずが無い。
にもかかわらず、経営者の多くは、10億円、100人、
という分かりやすい数字をめざすのである。

もちろん、規模の拡大にはメリットもある。
採用力もアップするし、銀行の融資も受けやすい。
そして何よりも、価格競争力がアップする。
大きいことは良い事であり、安定した企業の証でもある。
それが一般的な社会の評価ではないだろうか。
だがそのイメージとは裏腹に、
全く安定感のない大企業が目立つようになってきた。

シャープは買収され、東芝は上場廃止寸前、
有名百貨店も、大手外食チェーンも、業績はがた落ちである。
なぜこのような事態になってしまったのか。
少子高齢化、長期間に渡るデフレ、リーマンショックなどなど、
企業の業績が悪化した要因はたくさんある。
だがもっとも根本的な問題は、ビジネスモデルそのものが、
もはや過去のようには通用しなくなった、という現実だ。

インターネットが登場し、
パソコンとスマホが普及したことによって、
マーケットは形を変えてしまった。
消費者の価値観も変化し、広告は昔のようには効かなくなった。
歴史ある大企業は今、大きな転換を迫られているのだ。

大きな会社でも危ないのだから、小さな会社はもっと危ない。
そのように考えている人は多い。
だからこそ、多くの学生や、その親たちは、
大企業への就職を求めるのである。
だがこれだけ変化の激しい時代においては、
大きいことは必ずしも安定には繋がらない。
たくさんの工場や店舗、関連会社、従業員を抱える大企業は、
容易には変化することが出来ないからである。

では小さい方がいいのか。
もちろん、そんなに単純な話ではない。
業種や地域、商材によって、
自社の適正サイズを見つけ出すことが重要なのだ。
最も利益率が高く、変化にも柔軟に対応でき、
社員の能力が最大限発揮される規模。
それがめざすべき、適正サイズだ。

優先するべきは売上や全社利益ではなく、
社員ひとり当たりの利益の最大化である。
だが前述のように、経営者には野心がある。
規模を拡大したいという野心。
売上10億円を突破したいという野心。
その野心に歯止めをかけ、あえて7億円で売上を押さえる。
拡大ではない目標が、これからの経営には必要なのである。


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