ひとりブランド

10人の美容室はひとりの美容室よりも効率がいい。
家賃は10人で分担できるし、仕入れ交渉も有利になる。
顧客が集中したときには助け合えるし、
いろんな備品を共有して使うこともできる。

この理屈でいくと、10人よりは50人、
50人よりは100人の美容室の方が儲かるということだ。
実際そうやって大きな美容室グループは運営されている。
そしてこれは美容室に限った話ではない。

拡大による効率化。収益力アップ。
それはあらゆる業界で実践されてきたことだ。
だがこの戦略には翳りが見え始めている。
集客にかかる広告コストが
どんどん跳ね上がっているからだ。

効率化のジレンマがここにある。
個の力に頼らない経営は、言い換えるなら
個の魅力を生かせない経営でもある。

この人に頼みたい。他の人では嫌だ。
これは組織としてはネガティブな要望である。
その人がいなくなったら顧客まで失ってしまう。
だが個人としてはこれほどありがたい要望はない。

会社を辞めても、お店を移っても、
お客さんはついてきてくれる。
美容師の場合は最初からここを目指して働く人も多い。
集客に課題を抱える会社は、
このような個人を手放すのではなく、
パートナーとして組むことを考えるべきだ。

独立してさよならではなく、
独立後もパートナーとして繋がっていく。
そのためには独立前のサポートが鍵となる。
個人のブランド力と集客力を高めるためのサポート。
それを積極的にやっていく。
会社ではなく個人にお客さんがつくようにする。
つまりは独立のサポートである。

そんなことをしたら独立してしまう。
他社に引き抜かれてしまう。
もちろんそうなる可能性はある。
だからこそ発想の転換が必要なのだ。
顧客の定義を変える。商品を買う人ではなく、
独立していく社員こそがカスタマーなのだ。

この切り替えはあらゆる業界で可能である。
美容師はもちろん、不動産の営業でも、人材紹介でも、
引っ越し屋の梱包でも、やろうと思えばできる。
我が家のワインの梱包は是非この人に頼みたい。
そういう個人を育てていくのだ。

集客力とブランド力を兼ね備えた個人。
ひとりでも十分食べていける独立した人材。
ひとりの力を極限まで高める会社には、
意欲の高い人材が集まってくる。

会社は集客の苦労とコストから解放され、
個人は自分指名の顧客とやりがいを持って働く。
これこそが生産性アップを実現した
次世代企業の姿なのである。

 

この著者の他の記事を見る


尚、同日配信のメールマガジンでは、コラムと同じテーマで、より安田の人柄がにじみ出たエッセイ「ところで話は変わりますが…」と、
ミニコラム「本日の境目」を配信しています。安田佳生メールマガジンは、以下よりご登録ください。全て無料でご覧いただけます。
※今すぐ続きを読みたい方は、メールアドレスコラムタイトルをお送りください。
宛先:info●brand-farmers.jp (●を@にご変更ください。)

 

感想・著者への質問はこちらから