この記事について
自分の絵を描いてもらう。そう聞くと肖像画しか思い浮かびませんよね。門間由佳は肖像画ではない“私の絵”を描いてくれる人。人はひとりひとり違います。違った長所があり、違った短所があり、違うテーマをもって生きています。でも人は自分のことがよく分かりません。だからせっかくの長所を活かせない。同じ失敗ばかり繰り返してしまう。いつの間にか目的からズレていってしまう。そんな時、私が立ち返る場所。私が私に向き合える時間。それが門間由佳の描く“私の絵”なのです。一体どうやってストーリーを掘り起こすのか。どのようにして絵を紡いでいくのか。そのプロセスをこのコンテンツで紹介していきます。
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母の像、というと多くの人は自分を育ててくれた大人の母を思い浮かべるでしょう。しかし、Oさんは違いました。
「子供の姿の母を描いてもらえませんか?」と訪れたのです。
「子供の姿の無邪気な母を絵にしたら、きっと心が温まると思うのです。実は、母はもうこの世にいません。病気で数年前に亡くなりました。だから、天真爛漫でかわいい空気感を絵にしたいのです。
父も弟も男だから口数が少なくて、亡くなった母の話をあまりしません。寂しいので、母の気配を感じる絵がほしいと思うようになりました」
Oさんは、商社に勤める会社員です。「商社でカッコよく勤めている父に憧れてきました。優しい自慢の父です。母のこともいつも大切に包んでいました」とちょっとはにかんだ笑顔で教えてくれました。女性社員のパイオニアとして活躍してきたのが滲み出るハキハキした口調、細やかな物腰です。
そして「青々とした緑の中で、子供の母が人形のように足を投げ出して座っていて、脇に可愛らしい花が咲いているイメージをお願いします」と依頼しました。
しかし、このオーダーは、全く違うカタチに着地することになります。
変化の兆しは、最初のセッションから始まりました。「大切なお母様の絵だから、色々工夫したいですね!例えば、着ているお洋服はどうしましょう?お母さまが好きだったものとかも入れられますよ。
美術では、キリストの受胎告知を描いた絵の中で、白い鳩に精霊の意味を持たせたり、白百合でマリアの純潔を表したりします。天使ガブリエルとマリアと一緒に細々としたものを描くことで、情報を盛り込んでいるのです。そうすることで、絵を見る人と語り合い共有できるようにしているのです。
392年にローマ帝国がキリスト教を国教化した当時から、キリスト教は教会の装飾絵画などで、教えを広めてきました。本がほとんどなく、あっても読める人がほとんどいなかったので、絵を通じた対話が大きな力になりました。
Oさんも、絵の中にいろんなものに想いを託すことで、生前のお母様を知らない人ともきっとお話をすることができますよ」
想像が膨らむようにビジョンクリエイターとして投げかけたら、Oさんにアイデアが浮かびました。
「母が好きだったカワセミを、父、弟、私として3羽入れてください。そうしたら絵の中で家族が一緒にいられるし、家族のことも話せます。門間さんの話を聞いているうちに、母が好きだった湖を足元にちょっと入れたいと思いつきました!周りにはピンクの薔薇や花々が咲いていたら、どんなにいいでしょう」
「素晴らしいですね。ぜひ、そうしましょう」と頷くと、「こんなにいろんな要素を込めることができるなんて想像していませんでした」とOさんは目を輝かせました。
セッションの後に、アトリエに戻ったら画家の出番です。子供の姿をしたOさんのお母さんを、カワセミ、湖や花、木々が、円を描くように取り囲むように描きました。
絵の画像をOさんにメールで送ると、
「父に絵を見せたら、凄く気に入ってくれました!」と喜びが返ってきました。さらに、「絵を介して、母の話をできました。私が子供の姿で、とお願いした後で恐縮なのですが、父が大人の姿の母を描いてほしいと言っています。」
亡くなった大切な人を語り合い、そこから生まれるイメージは、家族の絆そのものです。
「良かったですね。大人のお母様の姿、お父様から詳しく聴いて下絵を描きましょう」
数日後に、Oさんからメールが届きました。「父のイメージは、花柄のワンピースを着て体育座りをしている姿でした。それを聞いて私は、絵の中で開放的な気分になっている母が思い浮かんだので、手は自由な感じで広げてください」
そして下絵を描くと、さらなる展開が待っていました。
「門間さん、ステキです!思い出の写真の花々が描かれているので、一枚の絵の中にいろいろな場面を思い浮かべる事ができます。湖の鳥の親子も、近所の公園の風景と重なり、より身近に感じられました。
母がまるで妖精のようです。生き生きとしていて、ファンタジーの世界が素敵だと父と眺めました。すると今まで見ているだけだった弟が、輪に入ってきたのです!3人でいろいろ話しました。
弟は、現実の母の雰囲気に近づけたいようです。もう一度、母の写真を集め、三人で話し合いました。母が好きだった淡いグリーンのカーディガンを着せて、少し控えめな母らしく、手を片手だけ少し広げる仕草が、3人共通のイメージになりました。母について、家族の良い対話になりました。素晴らしい機会でした」
そして、家族全員の想いが詰まった本画が決まりました。
途中経過をOさんに送ると、「弟は、絵の中の母が私に似ていると思ったようです」
「父もよく私に絵の経過を聞いてきます」その後の数ヶ月の間も対話が続いているのが伝わってきました。
想いを感じながら描いている私は、Oさんのお母さんが、家族に「がんばれ」と呼びかけているように感じました。その感覚を大事に生き生きと温かく描き出していきました。
Oさんの家でも絵を迎える準備が進んでいました。「良い絵に来ていただくので、家も綺麗にしたいと掃除も進めています。
完成を家族で楽しみにしています。最近は、母と対話する気持ちで、いただく経過の写真を印刷したものを時々眺めています」
そうして、経過の絵が何枚も張り替えられた後、クリスマスの前に絵が完成しました。
完成した絵を手にして「画像と絵では、存在感が全く違いますね!とても生き生きしてあったかいです」Oさんは目を輝かせました。
その後、Oさんは親戚から友人まで、絵を通じてたくさんの方とお母様の話をしているそうです。
「『お母さんと似ていますね』と言われると嬉しいです。母の思い出が詰まった描かれた鳥や花などの話もすると『お母様が伝わる素敵な絵ですね』『綺麗ですね』と言われていた事などを父に伝えたら『この絵は我が家の宝だ』と言って喜んでおりました。そして、絵を通して家族で母のことを話す機会が増えました。深く感謝申し上げます」
著者の自己紹介
ビジョンクリエイター/画家の門間由佳です。
私にはたまたま経営者のお客さんが多くいらっしゃいます。大好きな絵を仕事にしようと思ったら、自然にそうなりました。
今、画廊を通さないで直接お客様と出会い、つながるスタイルで【深層ビジョナリープログラム】というオーダー絵画を届けています。
そして絵を見続けたお客様から「収益が増えた」「支店を出せた」「事業の多角化に成功した」「夫婦仲が良くなった」「ずっと伝えられなかった気持ちを家族に伝えられた」「存在意義を噛み締められた」など声をいただいています。
人はテーマを意識することで強みをより生かせるようになります。でも多くの人は自分のテーマに気がついていません。ふと気づいても、すぐに忘れてしまいます。
人生
の節目には様々なテーマが訪れます。
経営に迷った時、ネガティブになりそうな時、新たなステージに向かう時などは、自分のテーマを意識することが大切です。
また、社会人として旅立つ我が子や、やがて大人になって壁にぶつかる孫に、想いと愛情を伝えると、その後の人生の指針となるでしょう。引退した父や母の今までを振り返ることは、ファミリーヒストリーの貴重な機会となります。そして、最も身近な夫や妻へずっと伝えられなかった感謝を伝えることは、絆を強めます。そしてまた、亡くなった親兄弟を、残された家族や友人と偲び語らうことでみなの気持ちが再生されます。
こういった人生の起点となる重要なテーマほど、大切に心の中にしまいこまれてカタチにしづらいものです。
でも、絵にしてあげることで立ち返る場所を手に入れることができます。