原因はいつも後付け 第54回 「そのネーミングは誰のため?」

 // 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 //
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

《第54回》そのネーミングは誰のため?

私はこのコラムで自身の店舗経営における失敗について書いています。

振り返って考えると、「よくもまあ、こんなに失敗してきたものだ」と自分でも感心してしまう訳ですが(笑)、今回はそんな数多くの失敗の中からタイトルにも挙げた「ネーミング」についての失敗について書かせていただこうと思います。


商品名や店名を考える時に、いまの私が意識していること。
それは「記憶に残りやすいかどうか」という視点。

なぜかと言うと、この「記憶に残るかどうか」が集客の難易度に大きな影響を与えているという実感が、私の中にあるからなのです。

《自己満足の代償》

開業してから4年目の2006年。
何とかお店を3店舗まで増やし、それぞれのお店が利益を出し始めた頃、私は次の出店であるチャレンジをしてみることに決めました。

そのチャレンジと言うのが、「カッコいいお店」を作ること。
何をもってカッコいいと言ってるのかは、今回の本題ではないので端折りますが、このチャレンジ自体が悪かったとは別に思っていません。

ただ、ここで問題だったのは、カッコいいお店にふさわしい店名にしようと考えた結果、私が「自己満足のカッコつけた店名」を付けてしまったこと。

それまでの私のお店とは異なり、英語と数字の入り混じった店名は、一見何と読むのかさえも分からず、仮に分かったところで、店名にはお店が伝えたいコンセプトも入っていないため、とにかく記憶に残りにくい店名だったのです。

結果、このお店は大きな損失を出し続けることとなり、その後の数年間は大変な苦労をすることとなりました。
もちろん店名だけが悪かったという訳ではないでしょう。

ただやはり、そのお店を立て直す過程で痛感したのは「記憶に残りにくい店名」は、それだけで集客において大きな損をしているということ。これは逆に考えるのなら、記憶に残る店名はそれだけで集客において得することができるということです。

《ネーミングの目的》

商品名や店名を考える時に重視するポイントは、店舗オーナーによって様々でしょう。
私は失敗してしまいましたが、自己満足のネーミングも否定するつもりはありません。

ただ大事なのは、自己満足を優先した「記憶に残りにくい」ネーミングは、私がやってしまった失敗同様、それだけで本来取れるはずだった利益を取り損ねるリスクと引き換えであり、その商品名や店名を使い続ける限り、その影響を受け続けるということです。

ネーミングとは、そもそもお客さんが商品やお店を覚えたり、使っているイメージを沸かせるための重要な手段だと思います。にも関わらず、私はその目的を忘れ、単純に「自分がカッコいいお店を経営している」と思われたい一心でネーミングを決めたことが原因で、大きな代償を払い続ける結果となりました。

お客さんの記憶に残るネーミングを意識すること。

この意識を持ってネーミングを決めるかどうかで、後々の集客コストは大きく変わってしまうという事実を当時の私が知っていたのなら、絶対に同じ店名は付けないと思うと同時に、これから商売を始めようと考えている方には是非、私と同じ失敗をしないよう「お客さんの記憶に残るネーミング」を意識していただきたいと心から思うのです。


私がカッコつけた店名にした結果、大きな損失を出すこととなった4号店。
ネーミングの重要性を忘れたお店は、それだけで大きな集客コストを抱えることになるのです。

 

著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

感想・著者への質問はこちらから