第104回 立ち止まるという選択

 // 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 //
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

今回は前回までとは一気に時代が変わり、2017年の辻本くんが相談に来てくれました。
どうやら創業以来、企業規模の拡大を続けてきたものの、雇用のルールを始めとした時代の変化を見据えて、このまま拡大すべきかどうか悩んでいるようです。

判断に悩む4年前の辻本くんに対して、今の辻本は何を思うのでしょうか?


今回は結論を先に書いてしまうと、私は規模の拡大に疑問を持った結果、店舗数や社員数を増やすことによって売上を伸ばし続ける規模の拡大を優先した経営を止めました。

規模の拡大を止めることを決めて主に取り組んだことは以下の3つ。

・離職者が出ても欠員補充的な採用で店舗を維持するの止め、比較的小規模な店舗を個人オーナーへ順次売却。
・会社から独立して個人でお店を経営したい社員の開業を支援。
・拡大を止めることで利益重視の体質にし、給料を含めた社員の雇用環境改善を進める。

その結果、2017年からの4年間で12店舗を売却し、100人弱だった社員数は70人ほどまでになりました。こうして書き出すと、何となくマイナスの印象をもたれる方もいらっしゃるかも知れません。事実、私自身も規模の縮小を始めた当初は「本当にこれで良いのか?」「縮小することで会社の活気が失われてしまうのではないか?」といった心配をしていた事をよく覚えています。

商売にはどの会社にも通用する共通の正解というものはないと私は考えています。
その為、この4年間で取り組んできた内容が本当にベストの選択だったのかは分かりません。

ただ今から振り返って思うのは、2017年当時、社員数や店舗数といった「数の拡大」から利益重視の経営に切り替える選択をしたからこそ、今もこうして商売を続けることができているということ。逆に言うなら、あのまま規模の拡大を続けていたら、恐らく今のコロナ禍を乗り切ることは出来なかったのではないかと思うのです。

企業やお店には、それぞの「勝ち方」というものがあるように思います。
でも、雇用を始めとした世の中のルールが変わっていくのならば、私たちはその勝ち方も時代に応じて変えていかなければいけないのは当然と言えます。

にも関わらず、ルールの変更に薄々気づいてはいながらも、そこに目を向けようとせずに同じモデルで商売を続けてしまうお店や企業が多いのは、一度勝ち方を覚えて走り始めてしまった商売は、「立ち止まって考える」よりも「この先も上手くいくはず」と自分に言い聞かせて走り続ける方が楽だからではないでしょうか?

走り続けるよりも立ち止まって考える方が難しいということ。

私はいま、再び出店を増やしていますが、そのモデルは4年前とは大きく異なります。
このモデルの変化を作った原因こそが「立ち止まる」という選択であり、そう考えると4年前に規模の拡大を疑い、一度立ち止まってくれた当時の辻本くんに感謝したい気持ちになるのです。

 

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著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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