第116回 みんなが買いたくなる価格設定

 // 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 //
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

今回は、起業をする一年前の辻本くん。
バーの開業に向けて順調に進んでいるように思われた事業計画の作成ですが、ある箇所から全く先に進まなくなってしまったようです。

その箇所というのが「価格設定」。

どうやら生ビールをお店の集客商品にしようと考えているようですが、価格をいくらにすれば、みんながお店に来てくれるのか悩んでいる様子。

できるだけ多くのお客さんに来てもらえる価格設定。
この考え方を今の辻本はどう見るのでしょうか?


「商品の価格をいくらにするのか?」
商売を始めようと考えた時、ここで悩む人は多いと思います。

もちろん価格の設定次第で利益率も変わる訳ですから、慎重になるのは当然と言えます。
ただ一点、今回の辻本くんに対してちょっとひっかかる所があるのも事実。

それが「みんながお店に来てくれる価格」という考え方。
確かに商売を始めるなら、お客さんは多いに越したことはないかも知れません。

一方で、この考え方の問題点だと私が感じるのは、「みんな」を対象に価格設定を考え始めると、価格は下げざるを得なくなるということ。

一言で「生ビール」とは言っても、ビールに対する期待値はお客さんによって異なります。そのため、みんなに来てもらおうとすればするほど、ビールに対する期待値の低い人に価格を合わせざるを得ず、結果的には安売りの価格設定になってしまう訳です。

事実、当時の辻本くんはみんなに来てもらおうと考えた結果、地域最安値の価格設定をしてしまい、全く儲からない商売になってしまったのです。

じゃあ、当時の辻本くんはどうするべきだったのか?

今から思う私なりの答え。
それが「みんな」という思考を捨てること。

多くの人に来てもらおうと考えて安売りすることに力を注ぐのではなく、自らがビールに感じている価値を価格に反映し、その価値を伝えることに力を注ぐべきだったと思うのです。

これが今の私が思う価格設定の考え方であり、自分の感じる価値を伝えるからこそ同じ価値観を持つお客さんに響くのであって、みんなに合わせようとするからこそ誰にも響かないのだということ。

「みんな」を追いかけた先にあるもの。

それは対象を絞り込めないお店がたどり着く安売りという結果でしかなく、そもそも「みんなに受ける商売」なんてどこにもないんじゃないか、と当時の辻本くんに伝えたいのです。

 

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著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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