第180回 消えていく接客の機会

 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

私がこのコラムを書いている事務所の隣にはドラッグストアがあります。
そして、そのさらに隣にはスーパーもあるため、仕事中の買い物は大体どちらかで事足りてしまいます。

そんな環境で仕事をしている時に、先日ふとお茶を飲みたくなったため、隣のドラッグストアへ行こうと思ったのですが、ある事が一瞬頭をよぎって、結局私はスーパーでお茶を買うことにしました。

私がお店を選ぼうとした時に、頭をよぎった事。
それが「接客の有無」だったのです。


ドラッグストアで買うお茶と、スーパーで買うお茶に商品の大きな違いはありません。
それでも私がスーパーでお茶を買うことにした理由はセルフレジがあるからであり、店員さんへビニール袋の不要や、代金の支払い方法を伝える必要がなかったからです。

つまり私は接客業をしているにも関わらず「接客されるのが面倒だ」と感じた訳であり、ドラッグストアからすれば接客することが失客の要因になったとも言える訳です。

無人の方が接客されるよりも楽だと感じたという事実。

じゃあ「この先、接客は本当に不要になるのか?」と私なりに考えてみると、恐らくほとんどの接客は必要なくなるでしょうし、事実、大手チェーン店などではすでに配膳ロボットの普及が進んでいます。

では、私がそう考えているからと言って、自分のお店も接客の機会を減らす方向で検討しているかと言うと、全くそうは考えていません。

というのも、そもそも「なぜ、私が接客されることを面倒に感じたのか」を考えてみると、それは私がお茶を買うという行為に求めていたものは、大手小売り店による「すぐに買える、安く買える」という体験だけであり、こうしたお店とお客さんの関係性が薄い接客は効率化が求められていく一方、私のお店が提供したい価値は、こうした顧客とお店との関係性とは全く異なるからです。

この先、ロボットやセルフ化が進むことで、人に接客される機会というのは減っていくでしょう。でも、それは見方を変えれば、人が接客するという行為に求められるお客さんの期待も高くなるという事であり、ここにこそ小規模経営が強みを発揮できるチャンスがあると私は思っています。

大手が進めるセルフ化や省人化は、私たち小規模店の接客の価値をより高めてくれる変化だということ。

そう考えるのであれば、大手が進む方向性に焦って追従しようとしてしまう事こそが、自らのお店の存在価値を低下させる行為であり、私たちが進むべき方向は今まで以上に、来店された方たちが居心地の良さを感じてもらえる接客の追求ではないか、と私は考えているのです。

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著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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