第197回 衛星の軌道、商売の軌道

 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

先日、仕事帰りに月が出ているのを見て、ふとこんな事が頭をよぎりました。

「月と地球って絶妙な距離感だよなぁ」と。

月が地球の周りを回っているのは地球の「周回軌道に乗っている」から。
お互いが絶妙な距離に存在しているからこそ、軌道に乗って周回できるのでしょう。

そして、この「軌道に乗る」という言葉。
私たちが実際に使うとしたら、それは宇宙の話よりも、「なかなかお店が軌道に乗らない」といった、商売の話をしている時に使う方が圧倒的に多いのではないでしょうか?

という事で、今回は「衛星の軌道」と「商売の軌道」について、私なりに考えて得た気づきを共有してみたいと思います。


話は少し飛びますが、私が起業してまともに休みを取り始めたのは、お店を開業してから1年くらいが経った頃だと思います。

決して忙しかったから休めなかったわけではなく、むしろ逆で「商売が軌道に乗ってもいないのに休むなんて本気度が足りない」と考えて、休まないようにしていただけです。

ただ、休まず働き続けてはみたものの一向に軌道に乗らない現状を目の当たりにし、私も少しずつ休みを取ることにしたわけですが、そこである事に気がついたのです。

それが、「お店に出ない日ほど、お店の改善案を思いつく」ということ。

当時はこの現象についてあまり深く考えていませんでしたが、いま改めてこの気づきの原因を考えてみると、それは休日の方が自分のお店を客観的に見ることができていたからではないか、と思うのです。

逆に考えると、商売を早く軌道に乗せようと思う余り、休みを取っていなかった頃の私は、自分の商売を主観でしか見れなくなっていたということ。

商売が上手くいかない時に必要なのは、前日と同じ営業を繰り返す事ではなく、改善を考えて行動する事です。そのきっかけを与えてくれたのが私の場合は休日であり、休日が自分と自分のお店との距離感を適度に離してくれたおかげで、改善案を見つけることができたのだと思うのです。

私たちは商売を真剣に考える余り、つい自分の商売に近づきすぎてしまいがちです。
ただ、近づくほど成功の確率が高くなるかというとそうではなく、むしろ近づきすぎて客観視点を失ってしまっている状態こそが、商売が軌道に乗らない要因になっている事もあるのではないでしょうか?

月は地球と適度な距離感を保っているから軌道に乗っているのと同様に、商売を軌道に乗せるためには自分と商売の間に適度な距離感を意識する必要があるのではないか、ということ。

もちろん月がそんな事を教えるために存在している訳ではないでしょうが、なかなか商売が軌道に乗らない時は月でも眺めて自分と商売の距離感を改めて考えてみるのも無駄ではないような気が私にはするのです。

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著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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